2027年のMotoGPは、マシンの技術規則とタイヤサプライヤーが同時に変わる節目を迎える。その準備がどこまで進んだのかを示す一つの材料が、2026年9月21日にオーストリアのレッドブル・リンクで行われたピレリの合同タイヤテストだ。
Honda、Yamaha、Ducati、Aprilia、KTMの5メーカーから18人が参加し、850ccのプロトタイプと、次期仕様を模擬した現行1000ccマシンで開発用タイヤを評価した。日本からは中上貴晶も参加している。ピレリはグリップと安定性に関する反応が良好だったと説明したが、現段階で公開された情報から速さの序列や最終仕様まで判断することはできない。
本稿は、PIRELLI FAN SITEの9月25日掲載記事とピレリの公式発表をもとに、テストの内容と2027年に向けた開発の流れを整理する。10月に新たなテストが実施されたというニュースや、市販タイヤの発売案内ではない。
オーストリアテストで確認できたこと
| 実施日・場所 | 2026年9月21日/レッドブル・リンク(オーストリア) |
|---|---|
| 参加規模 | 5メーカー、レースライダーとテストライダー計18人 |
| 使用車両 | 2027年型850ccプロトタイプ、および2027年仕様を模擬するため調整した現行1000ccマシン |
| 評価タイヤ | フロント・リアともソフト、ミディアム、ハードのスリック |
| 天候・路面温度 | 晴天、路面温度19~38℃ |
| 発表された評価 | ピレリによれば全体として好意的。特にグリップと安定性に言及 |
今回の発表で重要なのは、参加人数だけでなく、複数の車両構成と前後それぞれ3種類のコンパウンドを組み合わせて評価した点だ。ピレリの技術者はメーカー、チーム、ライダーと共同で走行データと技術的な意見を集め、翌シーズンの供給レンジを詰めている。

850cc化に合わせ、タイヤを評価する前提も変わる
2027年の変更点として最も分かりやすいのは、MotoGPマシンの排気量が1000ccから850ccになることだ。だが、タイヤの開発を考える際には、それだけを取り出して見ることはできない。エンジン、空力、車体姿勢に関わる規則も変わるためだ。
MotoGP公式の2027年技術規則発表では、最大ボアを81mmから75mmに縮小し、決勝用の燃料タンク容量も22リットルから20リットルへ減らすことが示されている。また、ライドハイトデバイスとホールショットデバイスを禁止し、空力にも制約を加える。これらはピレリの独自方針ではなく、選手権全体に適用される新しい車両規則の一部である。
そのため、現在のマシンで得られたフィーリングを、そのまま次世代マシンでの評価として扱うのは難しい。車体側の条件を2027年へ近づけながら走らせる必要がある。今回、850ccの試作車だけでなく、手を加えた1000cc車も使われたことは、この移行期の開発方法をよく表している。
1000cc車が参加したからといって、2027年にも同じ排気量でレースを続けるという意味ではない。既存車両を試験に使える状態へ調整し、新規則に向けた評価に活用したということだ。発表では各メーカーの改修内容や車両ごとの使用ライダーまで一覧化されていないため、誰がどちらの仕様で走ったかを推測して結び付けることは避けたい。
前後にソフト・ミディアム・ハードを用意した狙い
オーストリアでは、フロントとリアの両方にソフト、ミディアム、ハードが用意された。各チームはそれぞれの走行プログラムを組むことができ、ピレリはソフトから始めて、順にほかのコンパウンドへ移る進め方を推奨していた。
ここでいうソフト、ミディアム、ハードは、今回の開発用スリックを区別する呼称だ。市販タイヤの製品名や品番が発表されたわけではなく、これらの呼び方から一般向け製品との同一性を判断することもできない。購入できるタイヤの一覧として読むのではなく、供給する特性の幅を評価するテストとして捉えたい。
当日は天候が安定する一方、路面温度には19~38℃の幅があった。ひとつの温度だけでなく、変化する路面条件の中で走行したことが分かる。ただし、各コンパウンドがどの温度帯で何周使われたのか、全ライダーがすべての前後組み合わせを試したのかまでは公表されていない。
この区別は、テスト結果を読み解くうえで欠かせない。「前後3種類を用意した」という事実と、「全条件で優れた性能を証明した」という評価は別である。公表された範囲では、多様な条件から次の開発につなげる情報を得たと理解するのが適切だ。
中上貴晶を含む18人が参加。メーカー別の顔ぶれ
参加者は、レースを戦うライダーと開発を担うテストライダーの両方で構成された。ピレリの発表に掲載された18人は次の通りだ。
| メーカー | 参加ライダー |
|---|---|
| Honda | ヨハン・ザルコ、ディオゴ・モレイラ、中上貴晶 |
| Yamaha | トプラク・ラズガットリオグル、ジャック・ミラー、イサン・グエバラ、アウグスト・フェルナンデス |
| Ducati | マルク・マルケス、フランコ・モルビデリ、フェルミン・アルデゲル |
| Aprilia | マルコ・ベッツェッキ、ラウル・フェルナンデス、ロレンツォ・サバドーリ |
| KTM | ペドロ・アコスタ、ブラッド・ビンダー、ポル・エスパルガロ、マーベリック・ビニャーレス、セナ・アギウス |
中上は今回初めてピレリの2027年用タイヤを評価したわけではない。2025年9月のミサノで行われた最初のテストにも、Hondaのテストライダーとして参加していた。初期のプロトタイプを知るライダーが、次の段階でも評価に関わっている。
一方で、今回の参加者一覧は、2027年のチーム編成やレギュラーシートをすべて確定させる資料ではない。あくまでこの日のテストに誰がどのメーカーから参加したかを示すものだ。将来の所属や参戦計画と混同せず、開発に加わった顔ぶれとして見る必要がある。
ミサノ、ブルノ、オーストリア。評価の幅はどう広がったか
2025年9月:5メーカーのテストライダーが初期仕様を評価
最初の節目は、2025年9月16日のミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリだった。中上のほか、アウグスト・フェルナンデス、ダニ・ペドロサ、ロレンツォ・サバドーリ、ミケーレ・ピッロが参加した。
当時のピレリ公式発表によると、用意された試作タイヤはフロント2仕様、リア3仕様。現行車のライドハイトデバイスを停止し、一部では出力や空力も変更して、新しい850cc車に近い条件をつくっていた。最初の実走から、現在のマシンでの性能確認だけでなく、次期規則への対応を意識していたことが分かる。
2026年6月:ブルノで契約レースライダーの評価を追加
2026年6月22日のブルノでは、各メーカーが選んだ契約レースライダーが初めて加わった。マルク・マルケス、マルコ・ベッツェッキ、ペドロ・アコスタらの参加を、ピレリは開発の節目として説明している。
ブルノテストの公式報告では、5メーカーがそれぞれ2台を用意し、メーカーとIRTAとの間で事前に合意した走行計画を実施したとしている。一部のライダーはスプリントのシミュレーションや、決勝距離の走行も行った。短い走行の感触に加え、まとまった距離での評価が進められたことになる。
2026年9月:18人で供給レンジをさらに絞り込む段階へ
そしてオーストリアでは、参加者が18人となり、前後とも3種類のコンパウンドを評価した。テストライダーによる初期確認から、レースライダーの参加、さらに幅広い参加者による評価へと、公表された開発の積み重ねをたどることができる。
ただし、人数や仕様数の増加だけで完成度を数値化することはできない。例えば「開発が何%終わった」とする数値は示されていない。各段階で得た情報を次の試作・評価へつなげ、2027年に使用する特性を定めているという流れが、現在確認できる範囲だ。
好感触という発表と、まだ分からないこと
ピレリのモーターサイクル・レーシング・ディレクター、ジョルジオ・バルビエールは、オーストリアで集めた反応を全体として好意的だったと評価し、特にグリップと安定性に触れた。また、今回得られた情報を、今後の開発や供給レンジの特性をさらに明確にするために用いると説明している。
これは供給メーカーによるテスト総括であり、独立した比較試験の結果ではない。発表には、同一条件で既存のタイヤと比べたラップタイム、摩耗量、ライダー別の順位表といった比較データは掲載されていない。そのため、この報告から「従来より何秒速い」「特定メーカーが最も有利」といった結論を出すことはできない。
同様に、晴天のスリック評価から、雨天用タイヤの性能やすべての開催地での挙動を断定することもできない。次の発表を読む際には、好評だったという言葉だけでなく、使った車両、タイヤの仕様、路面条件、走行距離など、評価の前提がどこまで開示されているかに注目すると、開発の進展を捉えやすい。
次の節目はバレンシア。車両とタイヤを並行して仕上げる
9月21日時点のピレリの発表では、メーカーとのプライベート開発と合同テストを並行して進め、12月初旬のバレンシアでは翌シーズンのレースライダー全員が参加するテストを予定している。これは発表時点の計画であり、ここでは個々の参加者や実施日を確定情報として追加していない。
2027年へ向けた注目点は、新しいタイヤをどのマシンに履かせるかという一方向の話だけではない。車両側も新規則への対応を進めるなかで、双方の組み合わせを評価し、必要な特性を探っている。今回のテストで850ccの試作車と調整済み1000cc車が併用された背景にも、その開発途上ならではの事情がある。
オーストリアの報告は、ピレリのMotoGP用タイヤが完成したという宣言ではなく、5メーカーと18人から次の段階に進むための材料を集めた記録として読むことができる。中上を含むライダーの評価が、実際に供給されるタイヤへどう反映されるのか。次の合同テストで明らかになる車両とタイヤの進展に注目したい。
情報源
- PIRELLI FAN SITE:2027年MotoGP用タイヤのオーストリアテスト(2026年9月25日)
- Pirelli公式:2027年用タイヤ開発・レッドブル・リンクでのテスト(2026年9月21日)
- Pirelli公式:ミサノでの最初のMotoGPタイヤテスト(2025年9月16日)
- Pirelli公式:契約レースライダーも参加したブルノテスト(2026年6月22日)
- MotoGP公式:2027年導入の車両規則(2024年5月6日発表)
※本文は各発表の事実関係をもとにBikeman ニュース 編集部が再構成・解説したものです。アイキャッチは記事内容を示すイメージ画像で、実車・実物タイヤの写真ではありません。











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