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Red Bull erzbergrodeo2022「3人の侍、それぞれの挑戦と決意」

Red Bull erzbergrodeo2022

日程:2022年6月16日(木)〜19日(日)

場所:オーストリア

 

世界一とも宇宙一とも言われているハードエンデューロレース、erzbergrodeo(エルズベルグロデオ)に今年、5人の日本人が出場した。鈴木健二、藤原慎也、石戸谷蓮、杉村晋吾、稲垣正倫だ。ここではこの日本中が熱狂した挑戦をレポートしたい。

 

目次

エルズベルグロデオとは?

 

まず最初にエルズベルグロデオについてどういうレースなのかお伝えしよう。今年からFIMハードエンデューロ選手権の1戦に組み込まれてはいるものの、前回開催まではその前身であるWESS(World Enduro Super Series)の1戦、そしてその前はシリーズ戦に属さない世界規模の「草レース」だった。

オーストリアにある現役の採石場エルズベルグ鉱山の敷地を使用し、世界中から集まった1000台オーバーのエントラントが世界一のハードエンデューロライダーの栄誉を争う。

 

日本からは過去にも何人かのチャレンジャーが挑んでいるが、完走できたのは田中太一ただ一人で、モトクロストップライダーのスピードとトライアルトップライダーのテクニックを併せ持つ者だけが、その栄冠を掴むことができると言われている。

 

というのも、エルズベルグロデオには予選のアイアンロードと決勝のヘアスクランブルが存在し、予選のアイアンロードはいわゆるスピードアタックレース、そして決勝のヘアスクランブルはハードエンデューロレースだからだ。

 

1000人を超えるエントラントはまずこの予選で500人に絞られる。そしてその500人も1〜50位までが1列目スタートの権利を手にすることができ、そこから50人ごとに10列に分けられる。1列目がスタートしてから4時間でゴールを目指すわけだが、2列目がスタートできるのは5分後、3列目がスタートできるのは10分後、といったようにレース時間がどんどん削られていくため、予選で良いタイムを出し、前列をゲットしなければ完走は難しい、というわけだ。

 

さらに後列スタートになればなるほどセクションには渋滞が発生し、アタックするのにも順番待ちが発生し、ラインは塞がっていく。そのため、どれだけテクニックを持っているライダーでも完走するためには予選で3列目までに入ることが絶対条件と言われている(過去に一度だけ5列目から完走した田中太一は世界中のトップライダーを驚愕させた)。

 

三者三様の挑戦者たち

 

さて、冒頭で今年は5人の挑戦者がいると書いたが、そのうち2人は決勝のヘアスクランブルは最初から眼中になかった。杉村、そして稲垣は他の3人の応援、または取材で現地にいくため、せっかくだから予選に参加して一緒に楽しもう、という意図があった。実はこの2人と同様にエルズベルグロデオに参加するライダーの中には最初から決勝を見ていない、予選を楽しく走って、この一年に一度のお祭り騒ぎに混ざりたいだけの参加者もたくさんいる。むしろそれこそがメインと言っても過言ではない。

 

そのため、ここからは残りの3人、鈴木、藤原、石戸谷について触れていきたい。

 

まず1人目、鈴木健二。元は全日本モトクロスのファクトリーライダーであり、モトクロスを引退してからも日本のエンデューロシーンを牽引し続けてきた。JNCC、JECで合計8度もの年間チャンピオンを獲得しており、近年では全日本ハードエンデューロ選手権G-NETでもランキング2位まで上り詰めている。マシンはヤマハYZ250X。

 

そして2人目、藤原慎也。藤原は全日本トライアル選手権において最高峰のIASクラスに出場する現役のトライアルライダーで、シーズンオフにハードエンデューロに出場していた。それが昨年のG-NET最終戦で優勝したことをきっかけにエルズベルグロデオ出場を決意し、マシン作りやスピードトレーニングを積んできた。マシンはGASGAS EC300。

 

3人目は石戸谷蓮。JECやJNCCを中心にキャリアを積んできたエンデューロIAライダーで、3人の中では唯一のエルズベルグロデオ経験者。2018年から5年計画で完走を目指すと宣言しており、2年間の開催中止があったとはいえ、今年はその5年目に当たる。自らが主催したCROSS MISSION・ケゴンベルグの会場を使って本番を想定したトレーニングを積み、完走を目指す。マシンはBETA RR2T300。

 

このようにそれぞれモトクロス、トライアル、エンデューロをバックボーンに持ち、マシンのメーカーも異なる3人に、日本中の注目が集まった。

 

これまでと全く違ったアイアンロード

 

予選であるアイアンロードは2日間にわたって行われ、全ライダーが1日1本、2日で2本のタイムアタックを行う。そしてその合計タイムが予選順位となる。しかし、2日目は、1日目に1000人のライダーが走ったコースをそのまま使うため荒れ放題となり、タイムを縮めることはとても難しい。そのため1日目のアタックが極めて重要となる。

 

また、これまでのアイアンロードはコース幅が広く、最高速度が140km/hにも達するハイスピードなものだったが、開催中止している3年間はエルズベルグ鉱山に大きな地形の変化をもたらしていた。今年のアイアンロードのコースにはシケインがいくつも作られ、コース幅もまるで日本の林道くらいのものになっていた。

 

そのため1日目から予選コースは大きく荒れ、日本チームで最初のアタックとなった石戸谷がスタートする頃にはすでに100台以上が走っており、下見したものとは全く別のコースになっていた。さらに軽量化のためにガソリンを少なめでアタックしたものの、コックをリザーブではなくONのままにしてしまっていたというミスもあり、結果は1日目140位、2日目142位で最終145位。決勝レースは3列目。

 

過去にはモトクロスIAの矢野和都が1列目を獲得したこともあり、鈴木健二の予選順位には大きな期待がかかっていた。しかし、鈴木は初めてのアイアンロードにマージンを取りすぎてしまい、全力を出しきれなかった。結果は1日目96位、2日目125位で合計101位。惜しくも2列目を逃し、3列目に。矢野が出場した2015年から、エルズベルグロデオに出場するライダーの全体的なレベルアップも影響しているだろう。

 

トライアルライダーであり、3人の中では最もスピードアタックを不得意とする藤原慎也は1日目に転倒をしてしまうミスもあったが、3人の中でただ1人、2日目にタイムを更新。さすがの対応力を発揮した。1日目307位、2日目237位で合計303位。それでも何人か決勝を辞退したため、6列目をゲットした。

 

世界の高い壁が立ち塞がる

それぞれの決意

 

決勝ではまさかの1列目スタートの組でミスコースが発生。その対応に追われ、2列目のスタートが予定よりも遅れてしまう。そしてようやく迎えた3列目のスタートは1列目からおよそ20分遅れとなった。

 

鈴木健二は他のライダーが避けてガラ空きになった水溜りに突っ込むイン側を選択し、見事ホールショットを獲得。その後も3列目の中でトップ争いを展開した。石戸谷もそれに続く形で良い位置でスタートを切った。藤原がスタートしたのはそこからさらに10分以上後のことになった。

 

決勝レースのヘアスクランブルには全部で27のチェックポイントが設置され、最初に待ち構えるヒルクライム「ウォーターパイプ」を登ると、ようやくCP1。

 

日本人ライダーの中で最初にここに到着した鈴木は苦戦しつつもここをクリア。石戸谷が少し遅れて辿り着き、例年よりも制限されたラインに苦戦を強いられた。さらに藤原が辿り着いた頃にはこの下に100台以上のライダーが溜まっており、なかなかアタックすらさせてもらえない状況に。

 

鈴木は順調にセクションを進めていったが、CP5のダウンヒルで前のライダーが転倒。真後ろを走っていたい鈴木もそれをきっかけに転倒してしまい、急斜面を滑降。そしてそのあと、この斜面を落ちてきた巨大な石が不幸にも鈴木の頭を直撃してしまう。鈴木は脳震盪を起こし休息を余儀なくされた。その後、レースに復帰するが、この転倒でリアブレーキを失っており、CP7でリタイヤを決意した。

 

鈴木健二/227位

「GNCC、ISDE、そしてエルズベルグ。エンデューロの世界的な競技を全部参戦できたことになるんですが、そのすべてを見られたことが良かったと思いますね。エルズベルグはその中でも特にすごいレースだと感じました。トップライダー以外は毎日パーティしていて、朝4時まで飲み続けてるくらいエンジョイしてて、レースよりもパーティを楽しみに来てるんじゃないかと思うほど。ちゃんとホテルに泊まって完走を目指してるやつは100人くらいなんじゃないですかね?
自分は日本のエンデューロを20年見てきた自負があります。エンデューロは業界を盛り上げるためにやってきたし、それは今も同じ。盛り上げるために全力を尽くしてきて、このエルズベルグでやり切ったなって思えました。エルズベルグは自分が目指してきたエンデューロの姿そのものだったんです。規模の大きさ、楽しみ方、これが俺が目指してきたものだったんだって。その舞台に立ってスタートを目の前にすると、こみ上げるものがありましたね。エンデューロは楽しくなきゃダメなんですよ。ほんと自分も今回楽しみ尽くしました。
レース自体は自分が走れたのはCP7までですが、その範囲であれば日本のG-NETとそんなに難易度も変わらないと思います。ただ、セクションにトライしようとしても強引に入ってくるライダーが多かったりするので、その辺が難しさを生んでいる要因なんじゃないかな。あと、セクションの数がとにかく多くて休む暇がないんですよ。ずっと息があがってしまう短距離走を走ってる感じ。
もし40歳だったら、もう一度チャレンジしてたかもしれません。落石でリタイアってやっぱり悔しいですもん。でも50歳なんでやっぱり限界に来てるんですよね、流して走ることはできるけど限界を攻めていくのはもう難しいんです」

 

3度目のエルズベルグ・チャレンジとなる石戸谷はこれまでで一番早いペースでセクションをこなしていった。例年渋滞に泣かされていたウッズ区間もクリアしたものの、CP16でタイムアップを迎えた。

 

石戸谷蓮/127位

「エルズベルグは5カ年計画で参戦してきました。そのうちコロナ禍で2年レースが開催されませんでしたが、5年は5年。今年は最後の年のつもりで挑んでいます。
予選の順位もあげることができたし、決勝では2019年に苦労していたセクションをほとんど一発クリアでこなすことができていてスキルが上がっていることが実感できるレースでした。経験、練習の成果が出たんですね。渋滞にはまることも無かったから、3回の参戦の中で初めて実力を出し切れたと思います。
でも、反面完走は遠いことも認識できました。今回GNCCのマルチタイムチャンピオンのカイルブ・ラッセルがチェックポイント17までしか進めていないんです。つまり、圧倒的なスピードだけでは完走は無理で、トライアル的なスキルが相当ないと難しいんだなって思います。特に今年は渋滞もなくて、運ではなくスキルが成績に反映されました。自分が生まれ変わらないと完走は無理だな、って思っています。
ただ今回の結果が127位なので、世界のトップ100までは入ってやりたいなという欲も出てきています。本当に最後の挑戦のつもりでしたが、今は挑戦を続けたいんです。まだまだスキルを磨いて、挑戦して、最終的には日本のマーケットに還元したいですね」

6列目スタートの藤原はスタートの遅れや渋滞に悩まされ、大きく出遅れはしたものの、そのトライアルスキルをもって次々とセクションをクリア。先にスタートした石戸谷よりも先にCP10を通過した。しかしそれでも、石戸谷と同じCP16でタイムアップを迎えることになった。

 

藤原慎也/113位

「完走できるなって気持ちがすごく強くて、正直悔しいです。スタートの列順が悪かったことで30分も遅れてスタートしていますし、渋滞が本当に酷くて時間を失ってしまいました。セクションは難しいと思うところは特に無かったんです。みんなが失敗している簡単なラインを避けてどんどんパスしていけるし、まわりのライダーからもめちゃくちゃ賞賛されましたよ、おまえ凄いなって。体力的にもまだまだ残っていました。はっきりいって、出し切れていないんです。もし自分の実力を出し切ってこの順位だったら、来年また来ようとは思わないかもしれませんが、もっと挑戦したいっていう意欲は削がれていません。

今回の挑戦でエルズベルグを完走するために足りないものがいろいろ見えてきました。そもそもエントリーを決めた時期も遅かったから予選のスタート順も遅くなってしまったし、そのせいで想定していたマシンセッティングが通用しなかったりしています。たとえば決勝では12-50のギヤ比で戦ったんですが、これがウッズの短い助走で2速を使いづらいものになっていたりね。この経験値を活かして、さらにスキルも上げていけば完走いけると思うんですよ。

ビバーク大阪さんにマシンを用意してもらったり、クラウドファンディングでみなさんに助けてもらったり、いろんな人の力を借りてレースに出ることができました。来年も同じようにお力添え頂いて、完走を目指すことができたらいいですね

 

エルズベルグロデオを完走するためには2つの大きな条件がある。その1つ目が予選のアイアンロードで前列(1〜2列目)に出ること。そして2つ目がカールズダイナーと呼ばれるロックセクションにいち早く到達することだ。

 

今年エルズベルグロデオを完走している8人のライダーは、3人の日本人ライダーが4時間かけて誰一人辿り着けなかったカールズダイナーまでわずか1時間〜1時間30分で到達していて、そこからさらに2時間近くかけてゴールしている。エルズベルグロデオを完走するということは、それほど難しい話なのだ。

鈴木健二がライドしたヤマハYZ250Xスペシャル。セルスターターを装備し、リアタイヤには日本で発表されたばかりのMX14を使用。

石戸谷のリアタイヤ。現地ライダーからアドバイスをもらい、現地でムースを加工、装着した。

予選のアイアンロードに参加するKTMアドベンチャー。なお、決勝ではトップライダーの一人、ポル・タレスがヤマハTenere700に乗りCP17まで駒を進めた。

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この記事を書いた人

Off1.jp(ANIMALHOUSE)所属。2016年からG-NETの取材を続けるカメラマン兼ライターです。台湾、韓国、ルーマニアクスら海外レースへも取材に出かけ、日本のハードエンデューロシーンにかける情熱は誰にも負けません!

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