ロードレーサーでありながらオフロードにも造詣が深く、とりわけハードエンデューロを大好物としている濱原颯道が、80hpもあると話題の電動オフロードレーサーSTARK VARGの試乗をするために単身スペインへ。海外メディアなどではモトクロスコースでのインプレが数多く上がっているので、今回は本人も得意とするエンデューロコースで乗り込んでもらった
皆さん初めまして! モータースポーツ総合エンターテイナーを勝手に名乗ってる濱原颯道(はまはら そうどう)です! って、僕のことを知っている方にはそう名乗っているのですが、僕の事を知らないみなさんに向けて、先にちょっとだけ自己紹介をさせて下さい。
僕、濱原颯道はロードレーサーです。直近の戦歴で言うと、2021年は全日本ロードレース最高峰クラスのJSB1000クラスでランキング2位で、2024年の今年はSUZUKIのファクトリーチームである「Team SUZUKI CN CHALLENGE」という、エコタイヤやバイオ燃料などのサスティナブル要素を用いたマシンで鈴鹿8耐というレースに参戦し、総合8位でした。あと、以前は全日本スーパーモトの国内最高峰S1PROクラスでランキング3位など、そんな経歴を持ってます。
日本のオフローダー達がめちゃくちゃ気になってる電動オフロードバイクのSTARK VARGのインプレッションを、なぜロードレーサーの僕が行ったかというと、僕はトレーニングバイクでオフロードマシンに良く乗っているからなんです(と言ってもほぼ趣味に近いんですけどね笑)。そしてレースにもたまに出ています。モトクロスはよく乗りますし、エンデューロの戦歴で言えば、JNCCはCOMPクラスで総合13位、全日本ハードエンデューロで言えば総合12位、他にもCGCのゲロゲロクラスでランキング3位になったりと、それなりの経歴を持ってると思ってますし、そこそこ上手にオフロードバイクに乗れると、自分では思っています(笑)。その他にもトレーニングの一環でトライアルバイクに乗ったり、フラットダートもやります。自分で言うのもアレですが、オンでもオフでもバイクならなんでも好きで、割とそれなりにインプレッション出来ちゃう自信があります! それが理由かはわかりませんが、STAR FUTURE社が「日本人でウチのバイクに乗って、しっかり書けたり話せたり、影響力のある人を知らないか?」と、ある日本人に相談した所、その方が「濱原颯道って言うのが居てね」って言ってくださり、僕に話が来た、と言う流れです。
普段は読んでいる立場のOff1の記事を、今回は僕が書くという事でちょっと緊張気味ですが、僕っぽい書き方でお伝えしていきたいと思います!
クオリティの高さにまず感動
まずこのSTARK VARG、EV(電動オフロード車)です。最近で言えば、全日本トライアルで氏川政哉選手がYAMAHAのTY-E2.2で初優勝したり、藤波貴久選手がHonda RTL ELECTRICで全日本トライアルでラスト3戦を全て優勝したりと、すでにEVがかなりのポテンシャルを示しています。もちろんライダーの頑張りも大きいと思っていますけどね。
全日本モトクロス選手権でば2023年にトレイ・カナード選手がCR ELECTRICと言うホンダのプロトタイプ電動モトクロッサーに乗ってIA1クラスに参戦、優勝はできなかったものの最大トルクはCR500Rを上回るマシンだった、とも噂されたりとかなりのポテンシャルが伺えました。実は僕もこのレースは観に行ったのですが、「電動もここまで来たか…」と、思うようなレースを目の当たりにしました。そんなCR-Eを見た後にホンダの仲の良い方から「STARK FUTUREってメーカーのEVがね、吊るし(ストック状態)でもめっちゃ走るんだよ」と、聞かされました。「え? このCR-Eに匹敵するほどのマシンがすでに市販化されているの?」と、僕はびっくりし、そこから色々と調べていて、なぜか今回その憧れのバイクに乗るお仕事がもらえるという、ハッピー過ぎる展開になりました(笑)。
試乗したのはバルセロナ近郊のコース。モトクロスだけでなく、CGCレベルのガレがあるハードエンデューロ向けフィールド(1周2時間くらい!)や、林間コース、ダートトラックコース、FMX用のランプも備えていて、同社がモトクロスだけでなく広くオフロードに向けてSTRAK VARGを売っていきたいことがよくわかりました。
実際にマシンと対面すると「作りがめちゃくちゃ良いな」という印象を受けました。上質というか、外装のヌメっとした感じに、シートの造形の美しさ、エンジン車で言えば燃料タンクの位置であるシートの先端部に付いたカーボン素材のカバーにはゴールドに輝くSTARK VARGのエンブレム。なお、前後サスペンションは日本のKYB製で、チェーンはRKのゴールドチェーンが純正採用されています。リアアクスルのチェーンアジャスターも「なんで他のオフロード車はこんな作りにしてないんだろう」と思っちゃうような画期的な構造で、ひとつひとつが惚れ惚れする出来でした。
パドックからコースへ移動しようとしたら現地スタッフの方が「ちょっと待って、こんなモードがあるよ」とパドックを徐行速度で走るモードの存在を教えてくれました。レース仕様のロードマシンには大体ピットロードスイッチという、制限速度を抑えるスイッチがあるので、それに近いかと思います。それに加えてICE(エンジン車)じゃ絶対に出来ないバックモードもあります。試しにバックモードに入れてみるとモニタ上にムーンウォークをするキャラクターが表示されるのでそのままスロットルを捻ると、本当にバックしました。例えば、ハードエンデューロで山の中の狭い場所で、フロントすら振りにくい時に(というかフロントを振ること自体が難易度高いですもんね)このバックモードを使えば、簡単に方向転換できます。これね、実際に山の中で使うとめちゃくちゃ便利でした。
フレンドリー、高回転域でのパワー感、そんなインプレはありえない。だって全部自由に設定できるんだもの
パドックを後にし、いざエンデューロコースを走り出してみるとすぐに感じたのが、サスペンションのスムーズさでした。これは僕の持論ですが、ヨーロッパメーカーの純正でついてくるKYBの方が、国産車種についてくるKYBよりスムーズに動く気がするんですよね。STARK VARGも例に漏れずスムーズに感じました。ヨーロッパのオフロードバイクメーカーと言えばKTMグループがメジャーで、KTMもハスクバーナもGASGASもWP製サスペンションを採用しており一般的です。しかし、SHERCO、FANTIC、TM、BETA、RIEJUはKYBを採用していて、こちらも欧州のライダーにはおなじみとなっているようです。
あとSTARK VARGは購入時にリアブレーキのタイプを、ハンドブレーキとフットブレーキのどちらか選べるのですがエンデューロユースなら絶対ハンドブレーキ、モトクロスユースなら好みに合わせるのがいいという印象でした。左手にリアブレーキがあると、自転車やスクーターなどと共通の操作なのでバイクをおもちゃっぽく扱える気がするんですよね。足だと繊細な操作ができませんが、手ならできます。上手い人なら手でも足でも慣れてる方でいいと思いますが、ビギナーなら圧倒的に手です。左手でリアブレーキの効力を調整できるのって、素敵だと思いませんか?
そして皆さんが気になっているパワー感ですが、馬力はとにかく出ています。最高出力はなんと80馬力! 普通の450ccモトクロッサーが60馬力程度なのに対して、80馬力はむしろ出し過ぎな気もしました。普段220馬力くらいのロードレーサーに乗ってる僕でも、オフロードマシンの80馬力の前では、ちょっとビビりました(笑)。だって速すぎるんですもん。ですが、そこはさすが電動、パワーの最大出力を10馬力〜80馬力の間でコントロールできます。もちろん最大出力だけが変わるのではなく、エンジン出力をシミュレーションした特性に変わります。つまり、最大20馬力にしたら20馬力のICEのような出力特性になります。それに加えてエンジンブレーキっぽく使える回生ブレーキもめちゃくちゃ微調整できます。設定したマップは5つまでメモリーできて、CRF125Fっぽい特性から4st250モトクロッサー、2st300エンデュランサーに4st500ラリー車みたいなパワー特性を、ボタンひとつで瞬時に変更できます。一台のバイクで複数車種の特性を再現できるのって凄くないですか? 今はまだプリセットされた出力特性のみ使える仕様ですが、今後はスロットル開度に応じてトルクカーブを調整できるようにするそうです。そうなればICEじゃ到達出来ない域に達すると思います。ICEもFIや点火時期を使った電子制御で似たような事は出来るのですが、あくまでもそれは馬力のあるバイクのトルクカーブを電子制御で抑制するってだけ。EVの出力特性を変える事とはかなり違うかなと思ってます(編注:EVの電子制御はトルクを自由にデザインすることができるため、「トルクデザイン」という単語が存在するほど自由度が高い)。いわゆるエンジン車のインプレで聞くような「フレンドリーな特性」や、「高回転でのパワー感」といった印象はないです。全部自由に、自分好みに変更できるからです。
出力特性も回生ブレーキも、セッティング変更はハンドルのバーパッド部分に埋まってるスマートフォンみたいな端末に表示されるダイアルをタッチするだけ。本当これだけなんです。
実際に山の中を走った時のセッティングを話しておきましょう。ハードエンデューロ的な慎重な押しをしたい時には、マップ1に10馬力、エンブレカットを組み込みました。これは押しやすく、スロットルを閉じても”擬似”エンジンブレーキがかかりづらい設定です。エンストの心配がないのでICEより難所は楽な気がしました。他には2st300で1速で走るような場所では30馬力、エンブレ20%。ちょっとイゴりっぽい難所でフロントアップも必要なセクションでは、パワーを抑えつつもレスポンスがいいマップを組み込んでました。他には4st250で2速でダラダラと走るような、イゴまで行かないような低難易度の場所は20馬力エンブレ20%みたいなマップを作り、それを使ってました。移動路は40馬力エンブレ30%、JNCCのゲレンデ的な所は5〜60馬力エンブレ35%です。マップが5個まで作れるので、僕としてはめちゃくちゃありがたい機能でした。これを上手く使えば、ICEよりももっと楽にレースがこなせるんじゃないかな? って思ってます。
加えてモーターならではのメリットも感じました。エンジンは燃料が爆発、クランキングしてからパワーが出てくるのでロスを感じるのですが、モーターは動力が直結しているのでロスを感じないのです。パッと開けた時にドッと出ると言うか……。言葉にするのが難しいですが、脳とタイヤが連動しているような感じでしたね。タイヤがグリップしていてモーターに高負荷がかかっているような時にもクランキングに関係ないので、そのままスルスルって加速していくところも魅力です。
エンジンのクランキングは脈動を生んでしまうんです。ロードレースでは脈動が無いほうが最近のトレンドです。MotoGPは脈動が生まれづらいV型・L型のエンジンが多いんですよ。YAMAHAのR1でクロスプレーンを採用しているのは脈動を消してシルキー感を出して、トルクデリバリーをとにかく綺麗にする目的があります。今回STARK VARGに乗ってみて、あらためてクランキングによる脈動は、車体の挙動やタイヤのグリップを邪魔することがあるんだなと感じました。STARK VARGのパワーの出方はクロスプレーンっぽくもあり、V型っぽくもあり、でも多くの並列の普通の爆発間隔とは全く違います。ましてや4st450やビックシングルと言われるようなバイクとは真逆な回転上昇の仕方をします。
丸一日ハードエンデューロを遊べるだけのバッテリー容量
で、そこでですよ。80馬力なんてほとんど使わないんですよね、オフロードだと。モトクロスコースでも、出して60馬力で十分です。なので、ハードエンデューロ的な遊び方をするなら前述したように出力特性をかなり抑えることができるので、実際にはバッテリーは丸一日持ちますし、クロスカントリーなら4〜5時間、モトクロスならIA1レベルで25分ほど走ることができます。もちろんファンライドならSTARK VARGのバッテリー容量は十分すぎるんですよね。
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