全日本ハードエンデューロ選手権G-NET2023
最1戦 CROSS MISSION KEGONBERG
日程:2023年3月13日(日)
場所:神奈川県 人の森株式会社華厳工場
全日本ハードエンデューロ選手権2023の第1戦が神奈川県厚木市の採石場、「人の森株式会社華厳工場」特設会場にて開催された。新しいシーズンが始まり、マシンチェンジした者、タイヤメーカーをチェンジした者、成長する若手に、体力維持に努めるベテラン。それぞれの目標や想いが交錯する開幕戦だ!
2023年の注目ライダーを一挙紹介
ケゴンベルグに集結したオールスターズ
開幕戦ということで、最初に注目ライダーを簡単におさらいしておきたい。まずはG-NET2022を戦い抜き、栄光の黒ゼッケンを獲得した9名。
#1 山田礼人
G-NET2021、2022のチャンピオン。自転車トライアルで培ったテクニックをベースにCGCなどハードエンデューロレースでその頭角を現し、日本のトップハードエンデューロライダーへ駆け上がった若きチャンピオンだ。サハリン、トルコ・Sea To Sky、台湾など海外遠征も多く経験しており、2022年にはハードエンデューロ世界選手権ルーマニアクスのゴールドクラスに日本人として初参戦。11月の韓国遠征でも4位に入り、日本人最高成績を収めている。マシンはGASGAS EC300。なお、今年からShinkoタイヤのサポートを離れ、今大会はIRCのJX8 GEKKOTAをチョイスしている。
#2 大塚正恒
トライアルIA出身の大塚はステージ優勝こそないものの、ハードエンデューロに参戦して3〜4年とは思えないほど安定した好成績を叩き出し、すでに表彰台の常連となっている。年齢は50代に突入しており、課題はスタミナ。今年はマシンをBETA RR2T300からYAMAHA YZ250Xにチェンジ。その理由はとにかく軽量なマシンにすることによるスタミナの節約だという。排気量ダウンによるパワー不足はYZの高回転型エンジン特性を活かすことでカバーするというが、それでもBETAの2T300と比べれば低回転域でのトルク不足は否めない。これまでのライディングスタイルを変えてどこまで対応できるのか注目したい。
#3 佐々木文豊
山田礼人とともにルーマニアクスのゴールドクラスに挑戦した佐々木。佐々木もステージ優勝は未経験ながら、2022年第3戦日高ロックスでは3位表彰台を獲得。トライアルやモトクロスのようなベースは一切持たない、生粋の林道出身ライダー。今年はマシンをハスクバーナTE300からKX250Xにチェンジして開幕戦に挑む。
#4 水上泰佑
G-NET2010、2020チャンピオンの水上は、昨年でフル参戦引退を宣言。今年はなんと撮影係としてライダーと一緒にコースを走りつつ臨場感のある動画を撮影する。こちらもぜひ注目していただきたい。マシンはGASGAS EC300。
#5 木村吏
大学生が主体となって運営しているオフロードレース、キャンパスオフロードミーティング出身の木村がついにG-NET黒ゼッケンを獲得。鉄フレーム時代のHONDA CR250を愛車にFIM規格のマキシスタイヤで上位を狙う。2022年には第2戦Mt.モンキースクランブルでも2位表彰台を獲得している。
#6 原田皓太
2022年は怪我で地元・広島を欠場し、1戦まるまるノーポイントというハンデを背負いつつもこの順位をキープした原田。佐々木と同じく林道出身ライダーとして、期待を集めており、特に山でのイゴリ(バイクを押し上げるテクニック)は黒ゼッケンの中でもピカイチ。マシンはKTM 300EXC TPI。
#7 泉谷之則
ロッシ高橋の一番弟子、若手注目株として筆頭に挙げられ続けて早数年。すでに30代に突入したものの、2022年後半には急激な成長を見せて黒ゼッケンを死守した泉谷。ここ数年続けてきたモトクロストレーニングで得たスピードを見事にハードエンデューロで昇華させ、一気にチャンピオン候補の名乗りをあげた。マシンはハスクバーナTE300i。
#8 高橋博
G-NET2014-2019まで6年連続チャンピオンを獲得した、「ロッシ」の愛称通りの走る伝説。2022年は仕事の都合で最終戦を欠場してしまいランキングを落とすも、トライアルIA出身らしくスムーズな走りで抜群の安定感を誇る。今年も後進を育成しつつレースに参戦する。マシンはBETA X-TRAINER300。
#9藤原慎也
現役のトライアルIASライダーでありながらスピードをもちあわせ、国内では敵なしの実力を身につけつつある藤原。ハードエンデューロ界では「ぶっ刺し先生」の二つ名で知られ、2022年からはハードエンデューロ世界選手権エルズベルグロデオ完走を目標にチャレンジを始めている。G-NETはスポット参戦ながらも出場した大会では着実に高ポイントを獲得し、黒ゼッケン入り。マシンはGASGAS EC300。
森耕輔
日本人初のルーフ・オブ・アフリカ完走者。トライアルIA出身だがテクニックだけでなく、とにかくタフでストイック。G-NETはスポット参戦のため黒ゼッケンでこそないが、実力的にはチャンピオンクラス。マシンはYAMAHA YZ250X。
吉良祐哉
2022年の第5戦日野でハードエンデューロに初出場し、いきなり優勝してしまったトライアルIASライダー。今年は4ストロークマシンのGASGAS EC250Fで参戦。
鈴木健二
言わずと知れたMr.エンデューロ。モトクロスのファクトリーライダー出身で、JNCC、JECで数々のチャンピオンを獲得。長年日本のエンデューロを支えてきた、まさにレジェンド。マシンは自身が開発に携わったYAMAHA YZ125X。
大津崇博
現役の黒ゼッケンライダー全員に若手注目株として名前を挙げられる22歳。幼い頃からバイクに乗ってはいるものの選手権への参戦はなく、大人になってからWEXに参戦し、CGCで頭角を現した。マシンはGASGAS EC300。
CROSS MISSIONが掲げるコンセプトが
ハードエンデューロの未来を拓く
このCROSS MISSIONケゴンベルグは全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの1戦と設定されてはいるものの、他のステージとは明らかにコンセプトの異なるイベントとなっていた。
ヤマハが出展する「子供用バイク体験 親子向け」や、キッズ電動バイク・ヨツバモトの試乗会、さらに低年齢向けのランニングバイク体験が併催され、子供たちがバイクに興味を持つ機会を作りたいという主催・石戸谷蓮の思いが実現されていた。
さらに人の森株式会社の所有する巨大重機と触れ合えたり、近所の公園では味わえないような巨大な砂山で遊べたり、ヨコハマタイヤによる4輪オフロードラリーカーのデモランがあるなど、観戦者が楽しめるコンテンツが盛りだくさん。
いつもはアクセスの不自由な山の奥で開催され、なかなか一般の人々の目に触れる機会の少ないハードエンデューロだが、このように様々な目的で集まった人々が目にすることで、未来が拓けていくのではないか……そう思わせてくれるイベントだった。
ヤマハによるバイク体験会。小・中学生の子供を対象とした初めてのバイク体験。親が一緒に説明を聞くことで、子供の成長と笑顔を安心して見守ることができる。
ダートフリークが開発・販売を手がけるヨツバモトシリーズは4歳から乗ることができる電動キッズバイク。手軽かつ安価に子供たちがバイクを始めることができ、50ccマシンへのステップアップもスムーズに行うことができる。
ラリーカーに先導され、パドックからスタート地点へ移動するライダーたちのパレードラン。エルズベルグロデオやルーマニアクスでは市街地を使ったパレードがレース前日に行われ、街をあげての一大イベントとなっている。小規模とはいえ、ライダー、観戦者ともにそれに近い熱気を感じることができたはずだ。
2022年12月には世界トップライダーであるグラハム・ジャービスが来日し、絶賛したケゴンベルグ会場。オーストリアのエルズベルグ鉱山を彷彿とさせる。都心から1時間強でアクセスでき、このロケーションは奇跡的と言える。
ベテラン森に喰らいつく次世代・大津
ハードエンデューロレースは3時間耐久で、工場内に作られたコースを周回し、その周回数を競うのだが、トップライダーでも一周に1時間近くを要するため、中間地点にチェックポイント(以降、CP)が設けられており、時間内に一番多くのCPを通過したライダーが優勝となる。エントリーは206台。約20台ずつスタートし、G-NET黒ゼッケンライダーは最後尾となっていた。
花火の打ち上げとともにスタートフラッグが振られ、20台ごと一斉にセクションへ入るライダーたち。#16 岩鬼久重や#9 横田悠、#12 林宏志ら有力ライダーの姿も見える。
「いらっしゃいませ」と名付けられた最初のヒルクライムは、序盤から軽く渋滞気味。リスクを覚悟で失敗したライダーを避けながら登頂しなければ、時間だけをひたすら浪費してしまう。
第一線を退いたものの元黒ゼッケンライダー、中野誠也はさすがスムーズにクリア。最後尾スタートとはいえ、黒ゼッケンライダーたちは、すでに渋滞しているこのセクションをすんなり通過できないようでは話にならない。
黒ゼッケン一番乗りは、やはり藤原慎也だった。こういうシーンでこそ、自由自在なライン取りでトラクションをかせぐことができるトライアルテクニックがものを言う。続いて山田礼人、原田皓太、高橋博、泉谷之則が通過していく。
その頃、トップは「カチパンキャンバー」から沢を抜けて「HITONOMORI」をクリア。2列目スタートの森耕輔だ。そして僅差で森を追いかけていたのは、大津崇博。
その後、ハイスピードな林道を抜けると永遠に続くと思われる「Basic Rock」へ突入する。こういった岩セクションこそトライアル経験者が強いのだが、大津は必死に喰らいついていた。
トライアルIA森のテクニックを間近で見て、ラインを盗み、トレースする。若い大津にとっては、最高に学びが得られる環境と言えたのではないだろうか。
しかし森はロックセクションの後半にあるこの難所をスムーズにクリアし、大津を引き離すことに成功。
大津は残念ながら大きい岩の隙間にフロントタイヤを落としてしまい、タイムロス。
ここで鈴木健二が3番手まで上がってきた。後ろにいるのは昨年G-NETランキング10位で惜しくも黒ゼッケンを逃した西川輝彦。続いてAD/tacこと和泉拓、群馬の若手、羽鳥賢太と続いた。
と、ここで早くも最後尾スタートだった黒ゼッケンがトップグループに追いついてきた。なんとその先頭は泉谷! 続いて山田礼人、大塚正恒、佐々木文豊、原田、藤原の順で到着。最初のセクションを黒ゼッケン中トップで抜けた藤原だったが、その後クラッシュし、胸を強打。大きく順位を落としてしまっていたという。
藤原は他のライダーがアタックしていたラインを使わず、誰も通らなかった岩を攻略。順番待ちをしていた佐々木と原田を一気にパスしてしまった。
中間CPをトップで通過したのは森。「Yes Jarvis Style」での順位は森、大津、鈴木、山本、西川、泉谷、大塚、藤原、和泉、羽鳥。最後尾スタートのハンデはもうほぼ無いに等しい。
森、山田をトラブルが襲う
藤原の独走を追う2人の黒ゼッケン
「厚木ランドスケープ」前の助走のないサンドヒルクライムで、ついに藤原が森をパスし、トップに立った。
2番手争いは森、大津、山田。そこから森が抜け出し、一人で藤原を追走。
新設の「セパハンランド」では一度森が藤原の前に出るシーンもあったが、すぐに藤原が抜き返す。ここからは徐々に差が開き始めた。
厚木の山々を後ろに臨むことができる「King Of Hard Enduro」。藤原、森が通過。
なんと、レース終盤のここにきて3番手に泉谷が浮上! あとで聞いた話によると山田がラジエターホースを損傷し、修理のために戦線を離脱していたとのこと。泉谷に続いたのは大塚。
ここまで全員がゆっくりとタイヤをトラクションさせながら低速でトコトコと登ってきた「King Of Hard Enduro」。これまでなら確実に他のライダー同様トコトコ登るはずの大塚がなんと、敢えて一度下って助走区間を作り、エンジンを高回転まで回してスピードをつけて登ってきた。これこそがトライアル出身の大塚がYZ250Xでハードエンデューロをやるために変えてきた新しいライデイングスタイルだった。
そのまま藤原がトップをキープし、3周目の「セパハンランド」で3時間が経過し、レース終了。
2周目には2番手を走行中の森がまさかのガス欠で一時レースを離脱。その隙に泉谷と大塚が2番手争いを展開し、泉谷が45秒差で先にCPに入った。
山田はラジエターホースを修復しレースに復帰したものの、大幅に順位を落としたおかげで渋滞に阻まれ、ギリギリ2周したところでタイムアップを迎えた。
エルズベルグロデオ完走を睨む藤原
覚醒した泉谷と、心機一転の大塚
1位:藤原慎也、2位:泉谷之則、3位:大塚正恒、4位:森耕輔、5位:原田皓太、6位:大津崇博、7位:高橋博、8位:西川輝彦、9位、山田礼人、10位:鈴木健二
山田がラジエターホースの破損、森がガス欠で順位を落としたものの、終わってみれば実力通りの顔ぶれとなった表彰台。特筆すべきはやはり泉谷の2位だろう(2019年の第4戦日高ロックスで一度2位はあったものの、遠方のため多くの黒ゼッケンライダーが欠場していた)。
藤原慎也
「1周目でトップに出た後も後ろから森さんがすごくプッシュしてきていて、2周目は1周目よりもペースアップして走りました。3ヶ月ぶりのレースだったので、クタクタです。レース中は全身が攣ってしまったのですが、観客の皆さんやライバルであるはずの他のライダーさんたちまで応援してくださったので、頑張って走ることができました。
今回はエルズベルグロデオに向けてマシンのセッティングも兼ねての参加なんです。実際、走りながら作ってきたマシンの中で良かったところ悪かったところが見えてきたので、良かったなと思います。今は特にサスペンションを特殊な方法でセッティングしていて、これは良い感触が得られました。この後はエンジン内部を削ったり、今までハードエンデューロ界ではやられていないようなセッティングを試していく予定です。
僕は6月に世界一過酷なエルズベルグロデオに再挑戦します。そのため、次回のG-NET参戦は10月の広島になってしまうかもしれませんが、また皆さんの熱い応援をお願いします」
泉谷之則
「チャンピオンの弟子としてやっと結果を出すことができたので、本当に嬉しいです。今日はとにかくヒルクライムが決め手だったと思います。ロックセクションではどうしてもトライアルライダーに遅れを取ってしまったのですが、ヒルクライムではほとんどミスなく巻き返して、なんとか2位に入ることができました。
僕にしては珍しくキャンバーもミスなく走ることができましたし、下りも大丈夫でした。去年の12月にもこのコースを走っているのですが、その時より藤原選手との差を縮めることができたので、それは嬉しく思います。今年のチャンピオンシップでは大塚さんがライバルになりそうですね」
大塚正恒
「最後に泉谷選手を抜けなかったのは悔しいですが、このリザルトには満足しています。YZ250Xはやっぱり軽いですね。バイクを乗り換えてから初めてのレースでしたが、終わった後の疲れ方が全然違いますよ。
年始にYZ250Xを購入してから30時間くらい練習で乗ってきましたが、鈴木健二さんがなんであんなにアクセルを開けていたのか、よくわかりました。このバイクはああいう乗り方をするように作られているんですね。今日もそうなんですけど、ハードエンデューロレースは渋滞を抜けるためにラインをコントロールしながら走らないといけないのですが、YZ250Xは高回転でパワーバンドに入ると割と制御しやすいんですよ。僕はトライアルライダーですから、今までずっとバイクはタイヤをグリップさせて乗るものだと考えてきたんです。でも、YZ250Xはグリップよりもとにかくタイヤを回して引っ掻いて進むバイクなんです。自分のスタイルを壊してでも軽さという武器が欲しかった。結果は今日のリザルトに出ていると思います。
泉谷選手と2位争いをしていた時、3周目序盤のガレの登りで抜ける自信があったし、抜いたと思っていたのですが、ロックセクションでなぜか彼が前を走っていて、その後もずっと『どこかで抜いてやろう』と思っていたのですが、結局抜けないままCPに着いちゃいました」