ZETA RACINGから発売されたアドバンスシートには高さが3種類用意されているのですが、単に足つきだけを選べるわけではありません。今回は4つの観点から、アドバンスシートの選び方を考えてみます
ZETA RACING
アドバンスシート
¥22,000(¥20,000)
足つきを確保する
多くのライダーにとって最も重要な観点は、やはり「足つき」でしょう。足つきなどオフロードではうまくなったら関係ない、という論調も聞こえてきますが特にストップ&ゴーの続く公道ではクリティカルな問題。
とにかく足つきを重視したいというライダーには、当然ながら座面高さ純正比-25mmのローシートがオススメです。身長159cmの編集部伊澤がローシートのセロー250に跨がると、足の母指球(親指の付け根のふくらんだ部分)まで接地していて、だいぶ安心感がありますね。伊澤は普段ハスクバーナのTC85に乗っているモトクロス女子ですが、それでもシート高の高いバイクは乗りたくないそうで「セローにローシートがついていれば、だいぶ安心できますね。レース会場で転倒する分には笑い話で済みますが、公道で立ちごけして隣の車に傷をつけてしまったりしたら、大変。私のような筋力もなく背が低いライダーにとっては250ccのトレールバイクでも停車時にふらついてしまうと怖いので、やっぱり足つきがいい方が嬉しいです」とのこと。
一方、アドバンスシートのスタンダードは、純正より15mm高いのですが足つきはほぼ純正と同じところも見逃せません。腿の裏側がシートの角に当たるようだと、足がすっと地面に降りずに足つき性が悪くなるのですが、アドバンスシートのスタンダードは角の形状を工夫して足がまっすぐ地面に降りるようになっており、さらにスポンジフォームが柔らかく設計されていることで沈み込みも多めです。これは写真では出ないレベルですが、若干ながらスタンダードより足つきは良くなるようです(個人差あり)。
ハイシートでも、ギリギリ乗れなくはない……そんな足つき性ですね。
ツーリングでお尻/ヒザを痛めない
次の観点は「快適性」です。長い時間バイクのシートに座っていると、お尻が痛くなる経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。特にオフロードバイクのシートは痛みが出やすいのですが、これは座面が小さくお尻の圧力を分散できないことによります。お尻の圧力が小さい範囲にかかってしまうと、ウレタンフォームを狭い範囲で押しつぶしてしまうため、座骨がシートベースに底付きしてお尻の肉をぐりぐりと圧迫してしまうのです。アドバンスシートは、シートのくびれの後ろ辺り、つまり長距離を乗るときにお尻を乗せておきたい部分の座面を純正より広くとっていて、座骨が沈み込みづらくなっています。
それに加えてスタンダードシートは柔らかいフォームで座面を15mm厚めにつくっていることで、純正よりさらにお尻に優しくなっています。ローシートも、薄くて硬めのウレタンフォームを使って底付きしづらい設計になっています。ローシートを試しに1時間ほど乗ってみましたが、お尻が痛くなり始める兆候はありませんでした。
ちなみに、シートの悩みはお尻だけでなくヒザに抱えている人も多いことでしょう。特にセロー250の場合はシートとステップの距離が狭く、背の高いライダーにはヒザの角度がかなりきついものになります。身長180cmの筆者は、純正シートのセロー250で東京〜青森間をほぼ休憩なしで走った直後、バイクから降りたら地面に立っていられなくなりました。帰りは座布団をシートに敷いて嵩上げすると快適でしたが、アドバンスシートのハイシートがあったらどんなに楽だったか……。こちらも1時間程度乗ってみましたが、やはりヒザに余裕があるととても快適です。
スポーツライディングの観点
オフロードバイクのシートは、ハンドルやステップに次ぐ「入力装置」だということもできます。シートから体重をかけることでトラクションさせたり、コーナリングの際にもマシンを傾けるきっかけを作ったりします。また、同時にバイクからのフィードバックを受けるための出力装置でもあり、どんな路面なのかを身体で感じることができます。つまり、ダイレクトにお尻で入力でき、かつ、お尻で路面状況を感じやすいシートこそがスポーツライディングに向いているとも言えます。この観点で優れているのはローシートと、スタンダードシートでした。路面状況が変化しやすい林道やラリーなどでスポーツ的な走りをしたい方に最適だと思います。
スタンディングでトライアル的な遊びをしたい、というライダーにもローシートはオススメです。お尻とシートの間が広くなることで、バイクの動く範囲を大きくとることができます。トライアルバイクにそもそもシートがないのと同じですね。
逆にオフロードコースでしっかりスポーツ走行をするライダーには、やはりハイシートが断然オススメです。前後にフラットなシート形状は前後の移動がしやすく、しっかり前に座ることができて正しいポジションをとることができるからです。ゆくゆくはモトクロスやエンデューロの競技に出てみたい、というようなライダーはぜひハイシートで前に座る正しいポジションを体得しておきたいところです。
シートで変わる目線、ポジショニング
最後の観点は「安全性」です。これは普段あまり意識されにくいのですが、シートの変更によるポジショニングの違いについて触れておきましょう。シートを変更することで目線や肩の高さが変わります。特にローシートは小柄なライダーが選ぶことが多いと思いますが、その場合肩の位置が下がることでアメリカンバイクのような乗車姿勢になり、ハンドルを上から押さえ込みづらくなります。のんびり舗装路を走る用途には疲れづらくていいかもしれませんが、特にオフロードを走るつもりであればハンドルの高さを低く抑えてきちんとコントロールできるセッティングを出しておきたいところです。また、目線が低くなることで一般公道では先の交通状況が見えにくいデメリットを感じたり、スクリーンの取り付け位置を下げる必要なども出てくるかもしれません。
ハイシートも目線、肩の位置ともに上がる計算になるので気になる人はハンドル位置を変えるといいでしょう。ただし、筆者がセロー250で試してみたところ、あまり気にはなりませんでした。55mmフォームが厚くなっているものの、体重で沈み込む分があることでそこまで乗車位置は変わっていないのかもしれません。
これからアドバンスシートを選ぼうというライダーのみなさんは、これらのメリット・デメリットを考慮した上で、使用目的に合った選択をしていただければと思います。まずはノーマルシートからの卒業を目指しましょう。
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