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「理想とする海外ライダーのようなライディングに少しだけ近づけた」ZEROが圧倒的なスピードでブラックバレー広島を制し、G-NET2勝目

全日本ハードエンデューロ選手権G-NET2023
第5戦ブラックバレー広島
日程:2023年10月8日(日)
場所:広島県ホワイトバレー松原

全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの第5戦が、広島県ホワイトバレー松原で開催された。これまで4戦全ての大会で勝者が異なる今年のG-NETだが、ここでZEROが圧倒的な速さで2勝目をあげた

全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの第5戦が、広島県ホワイトバレー松原で開催された。第4戦日高ロックスから約3ヶ月のサマーブレイクがあり、ライダーにとってはレースがなかった期間の練習成果が問われる大会となった。前半戦を終えてのランキングは1位・原田皓太、2位・大津崇博、3位・山田礼人という展開になっていた。昨年は怪我による欠場もあったせいでランキングを6位で終えた原田は、今年の第2戦日野で劇的な初優勝を飾り念願のチャンピオンに一番近い位置にいる。また、2位に入っている大津は昨年まで黒ゼッケン(年間ランキング9位以内)ですらなかった若手の22歳(レース時)だ。今年はスピードと安定感を併せ持ち、第2戦日野で2位に入ったほか、大きく順位を落とすことなくここまで戦ってきている。3位の山田は一昨年、昨年と圧倒的な強さでチャンピオンを獲得し、世界選手権ルーマニアクスにも挑戦してきた。このブラックバレー広島はこれまで3年間全ての大会で山田が優勝しており、全く油断のならない存在と言える。

今年で4年目のG-NET戦となるブラックバレー広島は全ラウンドの中でも周回数が多くなる傾向があり、ハードエンデューロ中級者にも人気がある。コースはセクション一つ一つの難易度はさほど高くないものの、登りと下りがずっと続き、休むところのないハードなレイアウト。さらに今大会はスタート前に小雨が降り出し、レースが進むにつれて路面状況の悪化も懸念された。

スタート直後に新設されたセクション「わいS 1.8」は2段のヒルクライム。1段登ったところから横に抜けると迂回路があるが、直登するよりも時間がかかる。しかし直登ラインは試走跡もほとんどなく、スタートで出遅れてラインが制限されると直登はほぼ不可能と思われた。

後に「ホールショットを狙った」と語る大塚正恒が最初に挑み、見事直登を披露。原田もほぼ同じタイミングで別ラインから直登。続いてロッシ高橋、木村吏、泉谷之則、佐々木文豊ら他の黒ゼッケンたちは、リスクを回避して1段目から迂回ラインへ。

すぐに後続が押し寄せ、大渋滞が発生した。ハードエンデューロレースではスタートで前に出ないとすぐに渋滞に呑まれ、大幅に周回タイムを落としてしまうため、ライダーはみなこのセクションをいち早く抜けようと死に物狂いでフロントを突っ込む。

ゼッケン47番でスタートしたG-NETランキング18位の若手・吉岡蓮太が気合一発、直登を狙ったが、あと1mというところで浮いてくるフロントを抑えきれず失敗。

トライアルIASであり、第4戦日高ロックスを制した吉良祐哉は渋滞をスルリと抜け、さすがの一発直登。ゼッケン103番の不利な中盤スタートから一気にジャンプアップを果たした。

スタート位置と集計位置が少しずれている都合で、2周目に突入すると1周目に通過しなかった4つのセクションを通ってスタート地点に戻ることになる。そのうちの一つが「黒谷」だ。ブラックバレーという大会名とどちらが先に名付けられたのかは不明だが、この谷が今大会のキモとなった。

1周目をトップで走り切り、最初に黒谷に到達した原田は難なくクリア。2番手に佐々木、木村、西川輝彦、大塚、ロッシ、勝山聖、ZERO。その後も泉谷、山田と黒ゼッケンが続き、少し遅れて吉良、そしてトライアル出身の木本真央が到着した。

さらに大津や、木下夏芽が通過し、有力ライダーがひと段落したかと思った頃、再びZEROが現れた!

すぐに大塚が2番手で登場。さらにそのすぐ後ろに西川、そして原田の順で続く。レース後の原田のコメントによると2周目ラストの「シン組合ヒル」でZEROにトップを奪われたとのこと。

注目の大津はゼッケン169番という不利なスタート。必死に追い上げたが、上位陣が大きなミスをするセクションは少なく、なかなか差が縮まらなかった。

レース開始から1時間ほど、黒谷の入口が大渋滞を起こしていた。沢で濡れたタイヤで斜面を登るため、どんどんスリッピーになっていき、押し上げると土が掘れて、一台通るたびに着々と難易度をあげていくセクションになっていた。

こうなってしまっては、トップライダーもどうしようもない。と思いきや、4周目となるZEROは多くのライダーが渋滞待ちをしている沢の脇の斜面をキャンバーに見立てて走り、いち早くセクションを抜けていった。エルズベルグロデオなどでトライアル出身ライダーが渋滞をパスするために使うテクニックだ。

ZEROを追うのは西川。昨年は惜しくもランキング10位で黒ゼッケン入りは果たせなかったものの、大塚に師事して練習を重ね、第4戦日高ロックスでは自身初となるG-NET2位を獲得したベテランだ。

それに大塚、原田が続いていたが、この黒谷で番狂せが起きた。なんと、5番手で到着した泉谷が一気に2人をパスし、3番手に躍り出たのだ。泉谷は開幕戦ケゴンベルグでも2位に入っており、歯車が噛み合った時は恐ろしい強さを発揮する。その後ろではロッシ、吉良が渋滞の中に並んでいた。レース時間は残り半分。この辺りの時間帯で上位入賞者は絞られたのではないだろうか。

レース開始から約2時間30分が経過。残り30分ほどの時点で大津が順位をあげてきた。上からZERO、泉谷、西川、大塚、原田、ロッシ、吉良、大津という激戦。誰もが優勝できる実力を持っている。

ZEROはこの時点で完全に頭ひとつ飛び出しており、2位の泉谷から10分ほど先行、大津以下を周回遅れにしていた。前日土曜日の下見を入念に行い自分だけのラインを見つけ、ヒルクライムや下りの中でも器用にラインを変えて周回遅れのライダーをパッシングしていく。トップに立ってからも冷静にプッシュし続け、着々とリードを広げていった。

泉谷もZEROに次ぐハイペースで回っていたが、5周目にラジエターホースを破損。なんとか周回チェックまで辿り着き、チェッカー待ち(チェッカーが振られるまでゴール前で待機する行為)の体制に入った。しかし、ブラックバレー広島はチェッカー待ちをするライダーがゴール前に貯まらないようにするための独特な広島ルールがある。周回チェック手前に待機エリアが設けられており、そこを通り過ぎてしまうと、もう次の周回に入らなければいけないのだ。すでに待機エリアを過ぎてしまった泉谷は、時間はまだ残されていたがクーラントなしで周回するのは不可能なため、無念のリタイヤを決断した。

ここでこの広島ルールについて解説しておこう。テージャスランチで開催されていたサバイバル in 広島の時代から、広島で開催されるハードエンデューロでは”広島ルール”という少し特殊な取り決めが2つある。その1つが「レース時間が終了してから30分の間に周回チェックポイントで振られるチェッカーフラッグを受けなければ失格」というもの。もちろん既に何度も広島でG-NETを経験してきた泉谷は、このルールを把握していたのだが、待機エリアの場所を確認できていなかったのが落とし穴となった。

周回チェック前に新設された最終ヒルクライム「みずほ High Run 道」でもアタック待ち渋滞が発生していた。

ZEROは2〜3周目には一周約25分で周回していたが、4周目以降は周を追うごとに黒谷の渋滞がひどくなってきていたこともあり、チェッカー終了まで50分を残して6周を終えた。ここで安全策をとってチェッカー待ちをしようとしたが、やはり待機エリアを通り過ぎてしまい、そのまま7周目に突入。結果的にチェッカー時間を18分残して7周目を周回し、自身2度目となるG-NET優勝を手にした。

ここで2つめの広島ルール「トップでゴールしたライダーの周回数の6割に満たなかった場合は完走にならない」が重要になってくる。つまり、誰か一人だけが多く周回してしまうと、完走扱いにならないライダーがたくさん出ることになる。今大会ではZEROが7周したため、4.2周以上、つまり5周したライダーしか完走扱いにならず、G-NETポイントも付与されない。

2番手を走っていた大塚は5周目の最後にフロントブレーキを破損。制動力が全くなくなってしまったため、ここでレースを終えようとしたが、ZERO、泉谷同様に待機エリアを通り過ぎてしまい、やむなく6周目に突入。数々の激下りをフロントブレーキなしで下り、あと4分でチェッカー終了というところで見事チェッカーを受けた。結果的には待機エリアを見落としたおかげで順位が上がったことになる。

対して西川は5周を終えたところで残り30分を切っていたため、チェッカー待ちの判断を下し、待機エリアへ。ロッシ、原田は6周目に突入。ロッシは残り3分、原田は残り40秒というところでゴールに滑り込んだ。

最終順位は優勝、ZERO。2位、大塚正恒。3位、ロッシ高橋。4位、原田皓太。5位、西川輝彦。6位、大津崇博。

第5戦を終えてのポイントランキングは原田、大津、大塚、山田、西川、ZERO、ロッシ、木村、泉谷が上位9名で、現時点では黒ゼッケン枠をキープ。このままいくと大津、西川、ZEROら3名の黒ゼッケン獲得がほぼ確定となり、3名の脱落者を出すことになる。今年まだ一戦しか出場していない藤原慎也と、撮影班に回った水上泰佑は黒ゼッケン落ちがほぼ確定しており、残り1人は佐々木に王手がかかっている状態だ。しかし今大会から佐々木はマシンをKX250XからハスクバーナTE300に戻しており、さらに今大会では8位となった吉良も残りのG-NET戦フル参戦を予定しているなど、残り2戦の結果次第ではまだまだわからない状況だ。

なお、今回5周以上できたのは15名のみ。林宏志、羽鳥賢太、吉岡蓮太ら、G-NETランキング20位以内の固定ゼッケンを狙う若手ライダーたちの多くがノーポイントという結果となった。

若手の中で一人しっかり5周を回りポイントを獲得したのが久保山満生だ。久保山は現在ランキング13位と、あと一歩成長できれば黒ゼッケンに手が届くところまで来ている。

今年念願の黒ゼッケン5番をつけている木村は、2周目に左ステップを失いつつもしっかり周回し、11位。

女性ハードエンデューロライダーの星、木下夏芽はゼッケン12番を獲得し、気合いの走りで4周まであとセクション一つというところまで駒を進めた。昨年のブラックバレーでは2周だったが、ZERO、佐々木と共に練習をしていることもあり、大幅に実力を伸ばしている。今年は韓国サンリムエンデューロのシルバークラスにも挑戦予定となっており、木下がG-NETポイントを獲得する日もそう遠くないだろう。

ZERO

「僕は日高ロックスに出場しなかったので、約5ヶ月ぶりのG-NETでした。今年の前半に引き続き、RG3サスペンションの福森さんにマシンの整備をお願いして、週末は練習だけに集中させてもらいました。

前回出場した大町では優勝できたのですが、自分の理想とする海外のハードエンデューロライダーのような常にプッシュし続けるスタイリッシュな走りはできていなくて、今回はその走りに少しでも近づくことを目標にこの5ヶ月間練習を積んできました。8月に佐々木さんと一緒に池の平練習会に参加させてもらって、仮想ブラックバレーのコースをレイアウトしてもらったんですけど、それがまさに今日のコースにそっくりで、とても良い練習ができました。そのおかげもあって90点くらいの走りはできたのではないでしょうか。

最近ではG-NETも多くの観客が見にきてくれるようになっているので、楽しんでもらえるように魅了するような走りをしないといけないと思っています。世界から見たら日本のハードエンデューロはまだまだレベルが低いと思うので、僕みたいなモトクロスライダーや吉良選手のようなトライアルライダーがいて、みんなでレベルを底上げしていけたらいいな、と。その中で1番になれたら、そこでようやく世界選手権っていうのものに挑戦する資格が出てくるんじゃないですかね。

僕の中で理想の走りに一番近い日本人はJNCCの渡辺学選手なんです。なので今回はトップに立ってからも、前を渡辺選手が走っていて、僕はそれを追いかけているつもりでプッシュし続けていました。前回のレースがJNCCエコーバレーで、まさに渡辺選手を追い続けていたレースだったので、そのイメージのままスタートすることができたのも良かったと思います。

今回はゼッケンが87番とスタートが後ろだったので、最前列でスタートする黒ゼッケンライダーに追いつくために下見を入念に行いました。ヒルクライムは誰もが選択するであろうラインは見てなくて、別ラインからZを切って(直登せずジグザグに)登れるラインをいくつか探しておきました。

いつもはムースを使っているんですけど、今日は路面の悪化を懸念してタブリスにしていたので、全開で飛ばすというよりはパンクしないように高めのギアを使ってバイクを転がし続けることを意識しました。3周目くらいですかね、コースとラインがうまく繋がって自分のペースで淡々と走れるようになればもう大丈夫なので、それまでは焦らずに自制して走っていました。

次戦の寺山牧場は出られないのですが、最終選抜戦G-zoneはできれば出場したいと思っています」

大塚正恒

「序盤はうまく出られてしばらくトップを走っていたのですが、一周目の『柴犬ヒル』で結構ミスしてしまい、そこで5台くらいに抜かれてしまいました。そのあとはそんなにミスもなく走れていて、中盤では西川さんと抜きつ抜かれつして一緒に走っていたのですが、とても上手くて付いていくのがやっとでした。ZEROはめちゃくちゃ速くて、抜かれた直後には見えなくなってしまいましたね。

途中では順位が全くわからず、5番以内には入れていると思っていたのですが、まさか2位に入れるとは思っていませんでした。最後の一周はフロントブレーキが全く効かないまま走ったのですが、かなりきつかったです。僕は下りは得意だと思っているのですが、さすがにフロントブレーキなしはものすごく危険でした。

サマーブレイクでは、苦手なイゴ(ヒルクライムを押し上げるテクニック)の練習をしました。登れるヒルクライムの助走をどんどん短くしていって、途中でわざと停まって押し上げたり、ターンを入れたりしていました。特にここブラックバレーは失敗した後のイゴりがすごく重要になっていて、練習の成果が発揮できたと思います。苦手な周回数の多いレースで2位に入ることができたのは素直に嬉しいです」

ロッシ高橋

「今日は淡々とツーリングしていたんですけど、中盤ではずっと吉良くんと競って走っていて、10番目くらいかな、と思っていたので表彰式で3位に名前が呼ばれた時は本当に驚きました。今回は下見ができなかったのもあって一周目の黒谷で難しいラインに入ってしまい、そこですごく体力を消耗してしまいました。去年もここで3位に入ることができて、それ以来の表彰台でした。今年は弟子の大津くんに負け続けていたので、勝てて嬉しいです」

原田皓太

「コース設営に携わってくれたスタッフのみなさん、ありがとうございました。すごく楽しいコースでした。序盤は結構リードできていたのですが、3周目くらいから黒谷が渋滞し始めて追いつかれてしまって、そこから自分のミスとかでZEROや大塚さん、西川さんに離されてしまいました。

最終周は最後のヒルクライムに到着した時にあと2分くらいしかなくて、あと40秒というところでギリギリ滑り込んだ感じです。なんとか間に合って本当に良かったです。

正直勝ちたいですけど、ZEROも相当準備してきているので。負けたのは悔しいですけど、ラップされてしまったので完敗です……。ただ大津くんより上でゴールしたのでポイントランキング的にはリードを広げられたので良かったかな、と思います。残り2戦も優勝しか狙ってないので、また頑張ります」

西川輝彦

「堤(旧姓水上)選手が今大会の順位予想で3位に僕の名前を挙げてくれたので、期待に応えられるように頑張りました。順位もそうなのですが、自分の思い通りに走ることができたところが多くて、すごく成長を感じられました。目標だった5位以内は達成できたのですが、最後の一周に入らずに安全策を取ってしまったのは、今思えば少し弱気でしたね。それでも去年よりは全然良い順位なので、満足はしています。

最近は安定して10位以内に入れるようになってきていますので、これより上を狙うためには何をしなければいけないのか、というのをもう少し整理して練習していきます」

大津崇博

「今日は雨が降ってるのか降ってないのかよくわからない天気でしたが、ヒルクライムがすごく気持ちよくて、とても楽しいコースでした。ただ、ちょこちょこやらかしてしまって、そこで差が開いてしまったんだと思います。悔しいですが、次戦の寺山牧場では優勝を狙って頑張ります」

また、今大会はG-NET代表代理として河津浩二が会場に足を運んでいた。2010年にG-NETを立ち上げた張本人である河津に、現在のG-NETを見た感想を伺ってみた。

河津浩二

「2010年に僕がG-NETを始めた時には、それまでになかった難易度のレースだったので賛否両論あったのですが、最近はとても盛り上がっていて、ライダーもすごくレベルアップしているし、若くて熱意のあるライダーも多くて非常に驚きました。今日のレースも黒谷がとても難しかったのですが、みんなが少しでも前に進もうと頑張って走っていて、その中で黒ゼッケンライダーが素晴らしいテクニックを見せていて、とても盛り上がっていたと思います。

ハードエンデューロというのは僕が突然始めたわけではなく、昔から文化として続いてきたもので、今後もG-NETだけでなくハードエンデューロ全体が盛り上がっていってくれればと願っています」

全日本ハードエンデューロ選手権G-NET2023は残すところ2戦。次戦は11月19日、鹿児島県寺山牧場だるま杯となる。

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この記事を書いた人

Off1.jp(ANIMALHOUSE)所属。2016年からG-NETの取材を続けるカメラマン兼ライターです。台湾、韓国、ルーマニアクスら海外レースへも取材に出かけ、日本のハードエンデューロシーンにかける情熱は誰にも負けません!

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