全日本ハードエンデューロ選手権G-NET
第5戦 HINO HARD ENDURO
日程:2022年11月27日(日)
場所:群馬県日野カントリーオフロードランド
トライアル、ロードレースからも参戦
世界チャンピオンも!
全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの第5戦、HINO HARD ENDUROが群馬県日野カントリーオフロードランドにて開催された。まだ最終戦G-zoneが残されているものの、昨年のチャンピオン山田礼人(旧姓:山本)はこの大会を無難に走り切れば年間チャンピオンが決定する。さらに最終戦G-zoneは駐車スペースの都合上、G-NET年間ランキング20位以内のライダーしか出場することができないため、ボーダーライン上のライダーにとっては大切な一戦となった。
そんな中、今大会には他ジャンルから多数のライダーが参戦した。まずはトライアルIASの吉良祐哉。そして元トライアルIASであり、現オートレーサーの野本佳章。さらにロードレース世界選手権125ccチャンピオンであり、やはり現オートレーサーの青木治親。最後にJSB1000に出場するロードレースIAの濱原颯道だ。
ハードエンデューロはその特殊な競技特性から、このように他ジャンルのトップライダーが出場しても表彰台に登ることは難しい。しかし、トライアルは求められるスキルがハードエンデューロに似ているため、マシンさえ作り込まれていれば、度々上位に食い込んでくる。その最たる例が、2019年の日野で優勝した野崎史高だ。
また、ハードエンデューロレースにおいてかなり大事なスタート順だが、今回、G-NET黒ゼッケンライダー(昨年のランキング9位まで)とゼッケン10の野本は最後尾からのスタートとなった。吉良はゼッケン142番のため、条件は黒ゼッケンとイーブンと言えた。
コースは日野史上、最難。とはいうものの、前半の「ハードルート」と後半の「Gルート」に分けられており、「ハードルート」は比較的難易度は高くなく、トップライダーにとってはグルグル回れてしまう設定。そこを2周してから「Gルート」に突入するのだが、そこからが本当のG-NETコース。過去の日野ハードでも使われた「ワイヤーマウンテン」や「壁」「Betaマウンテン」などといった難しいセクションの他に、「HINO Death Valley」という谷が新設され、そこが今回最大の難所となった。
森、山本、水上が三つ巴の前半戦
前半のカギを握るのはスタートしてまもなく現れる「ヤブサカ」。過去の大会で使われた同セクションに加え、右側に追加で一本ラインが開拓されたが、そちらはより難易度が高く、自然とトップライダー用になっていた。しかし右のラインから直登しようとしても左側のラインから登り切れなかったライダーがラインを塞ぐこともあり、運が悪いと衝突を避けるためラインを変えたり勢いを殺したりする必要が出てきた。
その「ヤブサカ」をうまく抜け出てレースをリードしたのはゼッケン10番台で前列スタートを確保した西川輝彦と菊池さとし。しかしハードルートの後半「ガレキャンバー」では中盤からスタートした森耕輔がトップを奪い、僅差で西川が続き、それを黒ゼッケンの山田と水上泰佑が追いかけていた。
「ハードルート」の2周目前半、タイヤと丸太の人工セクション「テキサス・ロデオ」では山田がトップに立ち、それを水上、森が追走。少し空いて泉谷之則、大津崇博という順位。西川はここでタイヤに引っ掛かり、泉谷と大津に先行を許してしまった。
2周目を終え「Gルート」に突入した順番は山田、森、水上。
「ワイヤーマウンテン」中腹で苦戦する水上を山田が絶妙にZ字を切って押し上げ、パッシング。続いて泉谷、森、吉良、大津、原田皓太、高橋博、鈴木健二、大塚正恒……と有力ライダーたちが次々と通過。泉谷、大津という2人の若手がこの順位にいること、そして吉良がここまで順位を上げてきていることが番狂わせを予想させた。
続いて「切り株広場」。今回一番のロングヒルクライムであるここをトップで上がってきたのは水上。そして泉谷が2番手に浮上。
この後コースは一度舗装路を横切ってもう一つの山へ。そこではまた難所「K猫落とし」で順位の入れ替わりがあった。この入り口に設けられたロック区間でトライアルライダー吉良が水上、泉谷、山田、森をパスして一気にトップに浮上したのだ。
恐るべし、HINO Death Valley
吉良が本領を発揮
そしてトップのまま「HINO Death Valley」に到達した吉良だったが、ここでは前人未到のセクションを切り拓く役目を負うことになった。入り口のキャンバーではバイクを滑り落とすシーンも……。
湿った岩盤を一つずつクリアしながら順調に谷底のガレ沢を進む吉良。
吉良に続いたのは森、山田、水上の順。しかしここで森はプラグのトラブルでエンジンがかからなくなってしまい、水上は吉良がバイクを落とした沢の入り口で滑落し、クラッチレバーのクランプを破損してしまう。
2番手に上がって吉良を追う山田だったが、やはりロックに強い吉良は早々に沢を抜け、リードを広げて「Betaマウンテン」へと続くキャンバーへ入っていた。
トラブルからの復帰に手こずる森と水上を抜いて、原田と泉谷が山田を追って沢を抜けた。
水上はクラッチレバーをタイダウンで固定してレースに復帰するも、やはり操作に影響が残り、ペースをあげることは叶わなかった。また、森もプラグ交換(予備のプラグは途中で肩紐が切れて置き去りにしてきたリュックに入っていたため、徒歩で戻ってリュックを回収した)を終えて追走。「Betaマウンテン」で苦戦していた原田と泉谷を抜いて森が3番手に浮上した。
ここから先には大きな難所はなく、ゴールまでは順位の変動はなし。
優勝は吉良祐哉、2位は山田礼人、3位は森耕輔という順位になった。
続く順位は4位、泉谷之則。5位、原田皓太。6位、佐々木文豊。7位、大塚正恒。8位、高橋博。9位、大津崇博。G-NET黒ゼッケンライダーたちは最後尾スタートによる渋滞に苦戦したものの、やはり順当に上位をキープ。そこにトライアルIASライダーの吉良、ベテラン森、若手のホープである大津が食い込んできた結果だ。また、完走者は全部で19人。その中には野本と濱原の名前もあった。
このHINO HARD ENDUROはG-NETシリーズ戦の中でも特にコース設定が難しい。特に後半の「Gルート」、その中でも「HINO Death Valley」は過去最高の難易度とスタッフが評するだけあり、かなり走りごたえのあるものになっていた。今回のレース展開だけを見ると、「Gルート」で吉良が急激に順位を上げてきたようにも見えるが、実は前半の「ハードルート」の周回タイムでも、吉良が23分24秒と全ライダーの中で最も良いタイムを叩き出していた。2番目に速い山田が25分2秒なので、1分30秒以上も速いことになる。
吉良はG-NET最終戦・四国G-zoneにも出場を表明しており、田中太一(マーシャル)、藤原慎也、山田礼人らとのバトルも注目していきたい。
吉良祐哉
「RIEJUの辻本さんに『バイクを貸すからG-NETの最終戦に出てみない?』と誘われたんです。僕もずっとハードエンデューロに興味があって、出てみたかったのですが、他種目からの招待枠はランキング6位以内のライダーまでで、トライアルIASランキング13位の僕はその対象になれなかったんです。ですから日野で優勝してG-NETのランキング20位以内に入ろうと思い、出場しました。
Gルートの中盤にある切り株広場で一回トップに追い付いたのですが、逆光で何も見えなくて置いていかれてしまって。K猫落としの手前にあるガレた登りでトップに出ることができました。でもそのあとはまだ誰も走っていないのでラインが全然なくて、特にHINO Death Valleyの後のキャンバーではすごく苦労しましたね。
バイクは昨年の最終戦で柴田暁選手が乗ったRIEJUのMR RANGER 300というバイクで、タイヤはDUNLOPのAT81EXをフロントはチューブ(0.4kgf)、リアはタブリス(0.2kgf)で使用しました。
ハードエンデューロのレースに出るのは初めてだったのですが、この2週間はこの会場にいる誰よりも練習してきたつもりです。最終戦の四国も出るからには勝ちたいと思っているのですが、田中太一さんや藤原慎也選手もいますので、とても楽しみにしています」
また、山田はこの大会で2022年の年間チャンピオンが決定。
山田礼人
「今年も最終戦を待たずにチャンピオンを決めることができました。今年はルーマニアクスですごくメンタルが鍛えられましたし、韓国では長時間のレースも経験してきて、とても成長できた一年だったと思います。
今日のコースは韓国SANLIM EXTREME ENDUROのゴールドクラスよりも難しかったですが、ルーマニアクスのゴールドクラスと比べると半分くらいの難易度で、まだまだ及びませんでしたね。一番難しかったのはやっぱりHINO Death Valleyでした。
吉良選手と一緒に走るシーンがたくさんあったんですけど、やっぱりハンパなく上手いですね。特にガレ場で抜かされるんですよ。世界で戦うにはトライアルのテクニックが必須だと思うので、そういうところを吸収させてもらってステップアップしていきたいと思います。
プライベートなことですが、結婚して仕事も独立したので、来年はどういう参戦体制になるかわからないんです。土日に仕事が入ることが増えてしまうので。でもタカヒロ(大津崇博)とか若手も成長してきているので、できるだけ参戦したいと考えています」
次戦G-NET最終戦・四国G-zoneは12月11日、愛媛県デッキーランドにて開催される。