速く、そして楽しく走るために欠かせないメカ知識とモトクロッサーの正しい整備方法を紹介するメカのウンチク話。レジェンドメカ、小菅登氏の、タメになるウンチク話をたっぷり紹介いたします。
セッティングの味つけって何?
ライディングポジションに関するセッティングは1度決めたら走行前にそれを触って確認すればいい。
しかしキャブレターは気温や湿度といった天候条件によって、サスペンションは土質やコースレイアウトなどでセッティングをアジャストする必要がある。
セッティングはモトクロスをする限り、常について回るものだ。厳密に言えば走行ごとにするべきだ。しかし神経質になる必要はない。あるポイントを押えておけばセッティングは難しくはないし、経験を積めばあなたの強力な味方になるだろう。
そのポイントについて少し説明しておこう。よく「セッティングを煮詰める」と言うが、セッティングが合っている状態というのはピンポイントではない。サスペンションでもキャブレターでも自分にとって「合っている」と感じるセッティングには、ある程度の幅=許容範囲があるものだ。
このようにセッティングが合っている状態には幅がある。幅は許容範囲とも言い換えることが出来る。バイクのセッティング値がこの幅の中にあると正常に走れるし、幅から外れると不具合が発生する。
キャブレターを例にとると、1度セッティングを出していれば季節や天候が大きく変ったりしないかぎり、適正セッティングはこの幅の中に治まっており、とりあえず問題なく走行できる。しかし気温や湿度が大きく変化すると、スロットルを開ける度にエンジンがボコついたり、全開時にはキンキン唸ったりする。これがセッティングの幅からはみ出し状態である(図A)。こうなると誰でも異常を感じ取りセッティングの調整作業を始めるはずだ。
許容範囲の幅の中にある内は不具合を感じずに走れてしまうので、セッティングの必要性を感じない人もいるだろう。しかしその日の天候はセッティングの幅の中央かもしれないし、ぎりぎり端の方かもしれない。
天候の条件がセッティングの幅の中の端の方ギリギリでは「午前中の予選では良かったのに、午後の決勝ではボコついてしまった」などということになりかねない(図B)。
中央が走行日の適正キャブセッティング値だとする。自分のバイクの状態が幅の端の方にあると、午前の練習走行では問題なく走れても、天候条件が変った午後の決勝では、幅からはみ出し不具合が発生する。
セッティングの第一歩は、自分のバイクのベストセッティング、言い換えればセッティングの幅の中央=基準値を探ることにある。バイクのセッティングを幅の中央にしておけば、ある程度なら天候などの気候条件が変っても幅からはみ出して、バイクが調子を崩すことはない(図C)。
自分のバイクの基準値を出しておけば、どちらの方向にも許容範囲が広く、多少の気温や湿度の変化があってもセッティングが崩れることはない。またどの程度の気象条件の変化で幅から外れるかも予想できる。
さらに自分のバイクのセッティングの基準値を知っていれば、セッティングのアジャストも楽だ。というのは気温や湿度などのデータが分かれば、それに合わせたセッティングのアジャストも可能だからだ。アジャストする調整量はサービスマニュアルにも載っているが、セッティングの経験を積み重ねるとこの調整量を先読みできるようになる。
例えば「今日は先週に比べ気温がだいぶ低くいので、メインジェットは1段大きくしよう」という具合だ。この時データのベースになる自分のセッティングの基準値を知らなければ「ジェットはそのままで良いのか、それとも大きくした方がいいのか、はたまた逆に絞った方がいいのか」と迷ってしまう。こうなると走行前の準備作業は遅れ、しかもバイクのセッティングに自信がないままスタートラインに並ばなければならない。
これは自分がいつも走っているホームグラウンド以外のコースへ行った時も同様だ。土質の違いやアップダウンやコースレイアウトの違いを見極めれば、最初からアジャストすべき方向へ調整した状態で走り出すことができる。
もちろんそのためには天候やコースの違いによる、セッティングの調整法を知っておかなければいけないが、これも連載の後半でじっくりレポートする予定だ。
さらにセッティングには応用編がある。キャブレターのジェットを交換すれば天候条件に合わせることもできるが、同じ方法でエンジンの出力特性を変更することもできる。
セッティングの経験値が上がり基準値と許容範囲を把握できれば、自分の好みやコースコンディションに合わせて高回転域は濃いめに、逆に低回転域は薄めにという風にキャブセッティングすることもできる。
まずセッティングを幅の中央に合わせる。その後に幅の中で「高回転域が濃い目で、低回転域が薄す目」などと自分の走りやすいように調整する。いってみれば好みの味付けである(図D)。足回りもサスペンションのスプリングやダンパー調整で硬さやバイクの走行姿勢を味付けできる。
しかしその前にセッティング幅の中央を知っておくことが大切だ。たまたま好みのセッティングが出せてたとしても、そのまま走っていたのでは次回はどのようにアジャストしたらいいか分からない。自分の好みで高回転域が濃い目で低回転域が薄す目にアジャストしていること意識し、それをデータとして蓄積していくことでセッティングの経験値が上がっていくのである。
【基準値】
セッティングを始める第1歩として幅の中央を探ることが大事なのは本文の通り。これが大事な理由のひとつにバイクの個体差がある。
日本車の場合、違いは少ないが大量生産される機械である以上、この個体差は存在する。他人と自分のバイクは例え車種が同じでも生産された時から別のモノなのである。
ましてやある程度走り込んだ後ではサスペンションのなじみやタレ具合もまちまち。また「オレのキャブセッティングはこうだ」と言って来る人のエアクリーナーエレメントの汚れ具合は、他の誰とも同じではない。したがって自分のセッティングは自分で感じ、自分で探って行くしかない。
【コースや路面の違い】
硬い路面のコースでのセッティングの傾向はサスペンションは柔らかめ、キャブレターは薄目となる。この同じコースだけを走っているならそのセッティングを基準に天候に合わせる程度で済むが、サンドコースへ遠征した時には「自分のバイクのセッティングは硬い路面に合わせてある」ということを意識して「そこからサンド路面に合わせ直す」必要がある。硬い路面のまま、薄目のキャブセッティングでサンドを走ればトルクがないし、最悪は焼き付いてしまう。サスペンションも同様にギャップが深い路面にはまったく合わない。
[#05へ続く]
【クレジット】
Text: Dirt Cool
Illustration: Takuma Kitajima
Special Thanks: Noboru Kosuge
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