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メカのウンチク話 速く安全に気持ちよく走るためのセッティング 〇その心得編#2

速く、そして楽しく走るために欠かせないメカ知識とモトクロッサーの正しい整備方法を紹介するメカのウンチク話。レジェンドメカ、小菅登氏の、タメになるウンチク話をたっぷり紹介いたします。

目次

セッティングの効果はバイクだけじゃなく、ライダーにも効く?

モトクロッサーは数千台、数万台の規模でメーカーの工場で大量生産される。その後バイクショップに送られユーザーの手に渡る。ユーザーが購入した時にはメーカーが決めた大量販売に適したセッティングとなっている。これがいわゆるストック状態である。

メーカーが生産する段階ではどんなユーザーの手に渡るか予想できない。ライディングスキルの違いもカバーしなくてはいけないし、ライダーの体格もそれぞれ違う。走行するコースもカチカチの硬質路面からサンドコース、雨が降ればドロドロの路面も走るのモトクロッサーだ。さらに夏と冬では30度以上も気温差があり、湿気だって違う。そういったあらゆる場面を想定して設計されたのがストック状態(メーカー標準セッティング値)というのものだ。

ストック状態のバイクは様々な体格や体重のライダーでも、またどんなタイプのコースでもバイクの性能が70%ぐらい発揮できるようになっている。ただしこの70%というのは1周のラップタイムや最高出力のような数値ではなく「セッティングによって残り30%も性能を引き出せる余地がありますよ」というイメージとして捕らえて欲しい。

しかし近年のモトクロッサーは性能が大きく向上し、ストック状態でもそれなりに走ってくれる。特にセッティングをほどこしたバイクに乗ったことがないライダーは、ストック状態でも「自分には充分な性能が出ている」と錯覚をおこす。さらに初心者ではセッティングせずに乗りにくいことを「自分のテクニックでは乗りこなせないほど、性能が高い」と大勘違いをすることもある。

メーカーの工場から送られバイクショップで購入した時はバイクは、様々な体格のユーザーやスキルの違いに対応するため、誰が乗ってもそこそこ走る70%の状態。またどんなコースで乗っても70%の性能は発揮する。そこから自分やコースに合わせ、残りの30%を引き出すのがセッティング。

よくありがちな「俺のレベルではセッティングなんて不要」という論理も間違っている。プロライダーは走る前に必ずハンドルなどのポジションをチェックするし、キャブレターやサスペンションのセッティングにもシビアだ。これは自分のポテンシャルを100%発揮できるようにするため。彼らは自分に合ったバイクじゃないと実力が出せないとよく知っているからセッティングにもこだわる。

プロライダーがセッティングにこだわるのに、素人ライダーがセッティングせずに実力を発揮できるわけがない。ライディングテクニックの向上も大事だが、その前に自分の限られたライディングスキルをできるだけ引き出せるようにすることが重要。そのためにもバイクセッティングが不可欠なのである。

セッティングの効能とは??

具体的なセッティングすべき箇所について書く前に、もう少しセッティングの効能について説明しよう。

ライダーは走行中、常に「何かあった時」とのことを考え、セーフティマージンを持っているもの。「何か」とはバイクが自分の予測と異なった動きをしてしまうことだ。予期しないサスペンションの跳ね返りやハンドルの振られなどバイクの動きが不安だとライダーはセーフティマージンを多く取ってしまう。

逆にバイクの動きが全て予測でき、まさしく人車一体ならばさらに限界近くに踏み込んだとしても、それは安全に速く走れることになる。

セッティングすれば確かにバイクは良くなる。しかしメカチク的に注目したいのは、セッティングしたことによる機械的、物理的効果もさることながら「マシンが自分の好みにぴったりと合っている」とライダーが自信を持って走れること。これがセッティングによるもうひとつの大きな効能だ。

この心理的効果により、ライダーがセーフティマージンを削り自分のスキルを限界近くまで引き出せることで、さらなるタイムアップができる。

[セッティングをしてない場合]
セッティング前は性能の70%を超えるとリスクが発生し、それをライダーは不安を感じながら走らなくてはならない。
[セッティングを施した場合]
セッティングをしてあれば70%ラインを超えてもバイクに不安を感じることなく、ライダーもより限界近くまで力を発揮することができる。

セッティングとは安全に速くそして気持ち良く走れるために欠かせないものだ。したがってセッティングは国際A級を目指すライダーだけでなく「勝負にこだわらず気持ち良く走りたい」という人や「他人と競るより自分の走りのスキルアップが目的」という人まで、あらゆるライダーに恩恵がある。

あなたが今までセッティングをしたことがない、あるいはメカに自信がないというのなら、最初から「プロメカのようにしっかりセッティングを出す」なんて意気込まずに、まずは「これもモトクロスの楽しさの中のひとつ」という考えてセッティングを始めて欲しい。

「自分の作業によって自分のバイクが思うように動いてくれるようになった」「ここ一番の大事なシーンで自信を持って攻めることができる」「気になっていた症状が消えて、課題だったセクションがクリアできた」これらはライダーにとって最も大切なライディングプレジャーなのだから。

【セッティング】
最初に確認しておきたいのは、セッティングとは本来あるバイクの性能を引き出す作業で、バイクの性能を向上させるチューニングとは違うということ。どんなにセッティングが決まっても元々そのバイクが持っている性能以上のポテンシャルを発揮することはない。逆に言えばセッティングをせずに乗っていると、その性能差の分だけ損をしているということでもある。
また単純にバイクを走らせるだけならセッティングをしなくても走る。しかしそれはバイクが動いているだけで、深い意味での「走る」というのとは違う。本来、バイクとはセッティングをしてから乗るもので、購入したまま乗っていいものではない。

【大量生産】
メーカーで生産されるモトクロッサーはサイレンサーや装着タイヤ、あるいはキャブセッティングなどそれぞれの国に合わせて若干の違いはあるが、基本的にはほぼ同じ仕様で全世界に出荷されている。
同じ大量生産品でも靴などはサイズが数種類用意されて、ユーザーが自分に合ったものを購入できる。メーカーが「標準サイズはこれ」と1サイズしか製造しなかったら、足にぴったり合う人しか履けない。
モトクロッサーの場合、仕様はひとつだがサスペンションやキャブレターを調整することによって各ユーザーの体重や好み、天候などに合わせられるようになっている。

【ストック】
アメリカでは無改造のバイクを使用するレースをストッククラス、改造範囲が広いレースをモディファイドクラスと呼ぶ。ややこしいのだがレースに出場している以上、そのストッククラスに出場しているバイクはセッティングをほどこされたものである。
このページで言うストック状態とはメーカーが出荷時に設定したままの状態、メーカー標準セッティング値のことである。

【セーフティマージン】
セッティングされていないバイクの場合、ライダーの心理状態は「もしジャンプでリアが跳ね上げられたらどうしよう」「ギャップで振られたら恐い」などといった不安を持ちながら走行することになる。
普段の練習ならともかく、それがレース前の練習中や決勝中であれば不安を感じる度にスロットルを戻すわけにはいかないので、根性や度胸といった精神力でカバーしようとするだろう。向上心や「勝ちたい」というモチベーションは大切なものだが、無事に済むかどうかライダーにも分からないままそれ以上に攻める走りをするのは危険ゾーンに突入することになる。
例えばセッティングされていれば吸収できる衝撃を吸収しきれずにハネてしまう。こういった現象を自分の走りの中でクリアしなくてはいけない。「ストック状態では70%」という風に表現したが、このままで限界近くまで攻めるとしたら、セッティングされていない残りの30%分のリスクをライダー自身が負うことになる。
実際の走行ではリスクを負って転倒を覚悟で攻めるか、セーフティマージンを取ってスロットルを緩めるか、どちらかになってしまう。どちらにしてもバイクに不安を感じて走っているようでは、ライダー自身も70%しか力を発揮できない。
わかりやすい例で言うと、マッド路面のコースをドライ用のタイヤで走行すれば滑りやすくて思ったように走れず、攻めるどころかとにかく慎重に走るだけになってしまいイライラするはず。同様にカチカチのドライ路面を軟質タイヤで走る人もいない。タイヤの変更は誰でもやってるセッティングだ。その効果はみんなが知っている。バイク全体をセッティングすればもっと快適に走れることが分かるだろう。

[#03へ続く]

【クレジット】
Text: Dirt Cool
Illustration: Takuma Kitajima
Special Thanks: Noboru Kosuge

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