今回からこちらでG-NET戦のレポートを掲載させていただけることになったワケだが、まず最初にハードエンデューロとはなんぞや、というところを簡単に説明しておきたい。オフロードバイクの競技には短距離走のモトクロスと長距離走のエンデューロ、そしてタイムではなくテクニックを競うトライアル、大きく分けてこの3つのジャンルが存在する。そしてハードエンデューロとは、エンデューロの中でも特にコースの難易度が高く、ヒルクライムやロックセクション、激下りといった普通に走るのも難しいようなコースを一番速く走り切ったライダーが勝者、というわかりやすいレースだ。
G-NETは、2010年から始まったハードエンデューロの日本最高峰のレースシリーズだ。そう聞くとまだ歴史が浅いようにも感じてしまうが、前身となる大会はそれ以前にも開催されていて、公式に記録として残されていないため、始まりを探すのは困難を極める。
目指すはタマイチ(魂の1周)
ハードエンデューロ登竜門、さわやかクラス
CGCはSNSを通じて配信される楽しそうな写真や動画、そしてハードエンデューロの入門レース的な立ち位置が人気で、毎回エントリーは早期に締め切られてしまう。それもエントリー開始10分とか、そういうレベルだ。それほどプレミアなエントリーチケットを手に入れたライダーたちが、どういうレースをしているかをお届けしよう。
あいにくの雨天となった土曜日。最初のレースはCGCの中でも比較的やさしいコース設定の「さわやかクラス」だ。とはいえある程度のスキルがなければ1周することすら難しく、この「CGCさわやか」を1周できるかできないか、はそもそもハードエンデューロライダーを名乗れるかどうか、の意味合いを持つとも言えるだろう。
しかしそのクラス名とは裏腹に、山の中でもがくライダーたちはとても爽やかとは呼べない様相を呈していた。その理由の一つは雨。雨はレースを狂わせる。予定していたコースの難所をカットしたり対策は行われるものの、思いも寄らぬ場所が難所になり渋滞が発生することもしばしば。
スタートしてすぐに待ち構える「吉野川」。さわやかクラスでも、最上級のG-NETクラスで使うそのままのレイアウトで使用する。トップで駆け抜けてきたのはゼッケン6、エイ選手。2番手にゼッケン1奥川選手が続く。
大勢の観客が見守る中、どこまでも続く「吉野川」の大渋滞。同時に横一列になれるのはせいぜい3台までという狭いガレた沢を同時に登るのに、138台は多すぎる。
こういったガレ沢の基本は、石と石の合間や頂点など、走りやすいラインを繋いで、バイクを止めずに勢いで駆け抜けるのが鉄則。しかし、この状況ではよっぽど高いトライアルスキルを持っていないと、どうすることもできない。ただ、前のライダーが進むのに合わせ、少しづつ前に進むしかないのだ。
前のバイクのタイヤが濡れた石で滑って空転すると、後ろにいるライダーはこんな感じに。レースが始まってすぐだというのに、ゴーグルはその役目を全うしてお亡くなりになる。
永遠かと思える渋滞の「吉野川」をクリアすると、もう体力はゼロに近い。しかしレースはむしろここからが本番だ。スリッピーなくだり坂ではバイクを降りて押して下るシーンもある。このレースに「セクションはバイクに乗ってクリアしなければならない」というルールはない。バイクに乗ったまま降りて転ぶくらいなら、素直に降りて押した方が、怪我や故障のトラブルを防ぐことができ、結果的に速いのだ。
ここではたくさんのライダーが止まって進む先を眺めている。もちろんレース中だ。その眺める先には……。
スリッピーなヒルクライムがあった。この狭い上り坂にあの人数がいっぺんに押しかけると、危険度は限りなく高まる。だからこそ彼らは列を作って自分の順番を待っているのだ。ようやく自分の番が回ってきても、失敗すればまた最後尾に回って順番待ち。
これは、そういうレースなのだ。
この日一番の渋滞ポイントは、コース後半のセクション「丸太もうイヤ」だった。2時間あるレース時間の、1時間経過したあたりだっただろうか。約50台近いライダーがここに集まってしまい、マーシャルや他のライダーと助け合いながら一台一台クリアさせていくという地獄絵図と呼ぶにふさわしい光景が生まれた。
そんな中、見事なフロントアップで丸太をクリアしていたのがゼッケン114番の後藤選手。
「祭」の法被はゼッケン73番、あまちん選手。
そんな地獄を抜けてようやく1周を達成したら、もちろん2周目が待っている。こちらは2周目に入り、吉野川を抜けたところで体力が尽きたゼッケン33番、ばるばる選手。
そんなさわやかクラスの表彰式がこちら。優勝:鈴木巧選手、2位:kazu選手、3位:松村正明選手、4位:つるみ選手、5位:木本真央選手、6位:はると選手、7位:がっきー選手、8位:ポンズ選手、9位:taniyama選手、10位:奥川達哉選手。
優勝した鈴木選手にはBIKEMAN賞としてBIKEMANで使える10,000円分のクーポン券が授与された。
流行りのミニモトやビジバイが大活躍!
ミニG-NETクラスはサカオニbot選手が優勝
そして土曜日の午後に開催されたのが「ミニG-NET」。公式にリザルトも残らないお遊びレースではあるが、ライダーは本気で1周を目指している。他のいずれかのクラスにエントリーしていれば、ミニG-NETは参加費無料だ。
ちなみに数年前に初めて開催された時には「絶対に1周させません」というコンセプトで始まったと記憶しているのだが、今回は完走者が出てしまった(僕も2年ほど前に雨の大町でヨツバモトを抱えてコースを半分ほど走破(踏破?)した苦い記憶がある……)。
CGCを見ているとスーパーカブはオフロードバイクにしか見えなくなる。
フルサイズのレーサーでさえ苦戦する吉野川に、ミニモトや、果てはスクーターで挑む。途中でチェーンが外れて修理するシーンも。
坂は基本的に乗って登るものではなく、バイクを降りて押し上げるもの。「押しの技術(テクニック)」が試される。こちらはミニG-NETクラス最後の「ツインヒル」を押し上げるライダーたち。
しかし無情にもレース時間は30分でタイムアップ。
優勝はミニモトを押させたら日本一、サカオニbot選手。
決戦の日曜日
ミニバイク&おひなさま
明けて日曜日。雨はすっかり上がり、吉野川の水も綺麗に澄み渡っていた。まず最初に行われるのはミニバイククラス&おひなさまクラスのレースだ。
ミニバイククラスとはその名の通りホイールサイズの小さい(フロント19インチ以下、リア17インチ以下)バイクだけが出場を許される。そんな車両規定だから、過去にはホンダVFRのようなリッタースポーツバイクが出てきたりもする。
おひなさまクラスは、いわゆるレディースクラス。もともとこの時期のCGCは3月3日近辺に開催されており、ひな祭にちなんで「おひなさまクラス」「おだいりクラス」などと呼称されていた名残だ。
こちらはBETAのX-TRAINERのホイールサイズをミニサイズに換装した通称「ミニトレ」。AD/tacこと和泉拓が、女性や身長の低い男性にもフルサイズマシンの性能を楽しんでもらおうと発案したカスタムマシンだ。ゼッケン3番はチャーサキ選手。
また、コスプレ参加も多数見受けられた。流行りの漫画のキャラクターを真似て、レースの楽しさに他のエンターテイメントを織り交ぜていくスタイル。格式張ったレースでは咎められるコスプレも、CGCは歓迎ムードだ。
おひなさまクラスの中で、先頭で吉野川を駆け抜けてきたのはゼッケン3番ささっきー選手。最近ではトライアル練習に取り組んでいるのが、走りにも現れていた。
モトクロスレディース出身のゼッケン6番、かおりん選手はCGCの常連。2周を回っておひなさまクラス3位。
おひなさま優勝はゼッケン16番、酒オニ子選手。ささっきー選手は残念ながらマシントラブルに泣いた。
優勝の酒オニ子選手にはBIKEMAN賞10,000円クーポンが授与。2位:みっちー選手、3位:かおりん選手、4位:ささっきー選手、5位:もも選手、6位:まっきーぺん選手。
こちらはミニバイククラス。優勝:マンモン選手にもやはりBIKEMAN賞、10,000円クーポン。2位:9いんち選手、3位:ラスベガス2021生選手、4位:砂利ぱんだ選手、5位:93YZ250選手、6位:ふじふじ選手、7位:荒金裕晃選手、8位:ニッシー選手、9位:Kentaくん選手、10位:さとやん選手。
めまぐるしい若手の成長と、他競技からの参入多数!
最高峰、G-NET&ゲロゲロクラス
G-NETクラスとゲロゲロクラスも並走。G-NET黒ゼッケンライダー(前年度のランキング9位まで)がG-NETクラスのエントリーとなるが、ゲロゲロクラスでも上位入賞者にはG-NETポイントが付与されるため、大きな違いはない。
今年の開幕戦は、新型コロナウイルスの影響で他競技の開幕戦が遅れており、稀に見るほど他競技のトップランカーの参入が多かった。
特に注目されたのが、トライアルライダーたちだ。以前、2019年のG-NET最終戦、日野ハードエンデューロでは、トライアルのトップランカー野崎史高選手が参戦していきなり優勝をかっさらってしまったこともある。やはりスピードよりもテクニックが問われるハードエンデューロはモトクロスライダーよりもトライアルライダーに分があるのだ。
すでに常連となっているトライアルIAS藤原慎也選手をはじめ、同じくIASの柴田暁選手。そしてレディースランキング2位の小玉絵里加選手らが参戦した。
何を隠そうG-NETで2014年から2019年までV6チャンピオンの記録を打ち立てたロッシ高橋選手もトライアル出身だし、昨年黒ゼッケンの上福浦明男選手、波田親男選手など、トライアル界のレジェンドの多くが、ハードエンデューロに打ち込んでいるのだ。また、若手筆頭の山本礼人選手も自転車トライアルに打ち込んでいたという。
この他にもフリースタイルモトクロスのDAICE選手、エンデューロチャンピオンの釘村忠選手、トライアル出身でエンデューロIAの大神智樹選手、謎の覆面モトクロスライダーZERO選手など、あらゆるオフロードバイク競技から、名だたるメンバーが集まった。
ゼッケン順のスタートは、吉野川でリードを築くのに黒ゼッケンが圧倒的に有利なフォーマットと言える。まず最初に先頭を走ったのはゼッケン3番、鈴木健二選手。モトクロスIA出身ながら、エンデューロでもチャンピオンを獲っており、現在は世界最高峰のハードエンデューロレース・エルズベルグロデオを目指して取り組んでいる。
続くゼッケン2番が山本礼人選手。そして、2020チャンピオン水上泰佑選手と続いた。
中盤の難所「奈良漬」に最初に姿を表したのが、水上選手。一面に広がる湿地帯は、誤ったラインに入ってしまうと前輪が捕らわれ、身動きができなくなってしまう。前日に入念に下見したラインを思い切り全開。
続いて、山本選手、藤原選手。ゼッケン39の藤原選手はここまでに30台以上を抜き去ってきたことになる。と、いうか吉野川が終わった時点ですでに5番手あたりにいた。おそるべし、現役トライアルIAS。
鈴木選手も、代名詞となっているワイドオープン(アクセル全開)で追う。が、悲しいかな。この日最初の奈良漬の犠牲者となってしまう。観客の手を借りてマシンを引き出してもらい、先を急ぐ。
そこからしばらく、山本選手、水上選手、藤原選手の3つ巴のバトルが続いた。
レースが動いたのは2周目の奈良漬。水上選手が足を取られ、順位を落としてしまう。そう。奈良漬の恐ろしいところは、1周目で安全だったラインも、2周目までの間に通過したバイクの影響ですっかり様変わりしてしまい、同じラインが生きている保証はない。
さらに3周目には藤原選手も奈良漬に捕まり、山本選手の独走状態でレースは終盤に突入していった。
かに思われた。
なんと、1周目に奈良漬に捕まり、遅れていた鈴木選手が3周目に猛スパートを始めていたのだ。実はこの鈴木選手が後半に突然ペースアップをするのは珍しいことではなく、これまでも度々レースで見られたこと。というのも、レース前日に試乗会などのイベントを行なっていることが多く、下見の時間を十分に取れないからだ。今回も前日には大阪で行われるJNCC会場にてスクールを行なっていた。
レースは残り時間30分ほどで4周目に突入した。依然としてトップを引くのは山本選手だったが、4周目の奈良漬でついに鈴木選手に追いつかれた。そしてラインを慎重に選んでいた山本選手をパスして鈴木選手がトップに躍り出た。
あと3分、足りなかった。
CGCでは集会の途中にチェックポイントが設けられていないため、4周目を回りきらないと、リザルトには反映されないのだ。鈴木選手は最後の一つ前のセクション「セローヒル」でタイムアップ。トップを走りながらも、優勝は山本選手のものとなった。
「去年は5位だったし、正直このコースは苦手でした。だから事前練習にたくさん来たし、他にも練習はものすごくしました。今年から乗り換えたGAS GASのEC300も、もう60時間も乗ってるんです。エンデューロバイクにしては比較的高回転形のエンジンなのですが、ビバーク大阪さんでセッティングしてもらって、僕の好きなデロデロな特性にしてもらいました。やっぱり奈良漬が難しかったですね。僕はハマりませんでしたが、1周目からずっとバトるしていた藤原選手やタイスケくんもハマっていたので、4周目には慎重にラインを選んでいたら、ケンジさんに抜かれてしまいました。勝てて本当によかったです」と山本選手の優勝コメント。
優勝:山本礼人選手、2位:鈴木健二選手、3位:佐々木文豊選手、4位:水上泰佑選手、5位:原田皓太選手、6位:藤原慎也選手、7位:高橋博選手、8位:永原達也選手、9位:中野誠也選手、10位:波田親男選手(※G-NET・ゲロゲロクラスは全て本名で掲載)