全日本ハードエンデューロ選手権G-NET
第3戦 Hidaka Rocks
日程:2022年6月25日(土)、26日(日)
場所:北海道日高町
全日本ハードエンデューロ選手権G-NETの第3戦が北海道日高町にて開催された。ここまで2連勝のチャンピオン山本礼人だったが、ついにここで黒星がついた。勝ったのはG-NET初代チャンピオン、水上泰佑。実に3年ぶりの優勝となった
予選アイアンロード
覇者・和泉拓に迫る山本礼人
Hidaka Rocksは土日の2日間に跨って開催される。土曜日には予選アイアンロード、日曜日には決勝ヘアスクランブルという形をとっているが、土曜のみ、日曜のみの参加も可能だ。これは予選と決勝が全く異なるレースフォーマットをとっているため、「予選だけ出たい」「決勝だけ出たい」というライダーに配慮してのことだ。
さて、予選アイアンロードだが、エルズベルグロデオの予選と同じ名がつけられていることからも察せられる通り、ハイスピードコースのタイムアタックとなる。採石場の作業道として綺麗に整備された砂利道を、時速100km以上で走り抜ける。モトクロス、エンデューロ、トライアルしかやったことのないライダーなら、まず未体験のスピードだろう。
前回まではこのアイアンロードの後に、人工セクションを使ったナイトテストを行っていたのだが、今年はこのナイトテストをなくし、アイアンロードを2本に。2回走って良かった方のタイムが予選結果として採用されるのも、エルズベルグロデオと同じだ。
最初にアタックしたのは昨年のG-NETチャンピオン山本礼人で、タイムは3分9秒。山本は決してスピードタイプのライダーではない。和泉拓、池町佳生、木村吏、水上泰佑、馬場大貴らはこのタイムを越えてくると予想された。
しかし、結果は和泉拓だけが3分8秒とわずかに山本を上回ったものの、他の有力候補のタイムは思うように伸びなかった。それもそのはず、このアイアンロードはただの真っ直ぐなストレートではなくいくつかのコーナーを含んでいて、迂闊にスピードを出しすぎると崖落ちもありえる(事実、2019年には藤田貴敏が落ちている)度胸試しのレースなのだ。それを練習なしの一回でタイムを出すというのは、あまりにもリスクが大きすぎる。山本は実際にレースに参加するのこそ初めてだったが、2018年、2019年大会ではコースレイアウターを務めており、このアイアンロードの地形をよく知っていたことも有利に働いたのだろう。
昼休憩を挟んで2回目のタイムアタックが行われた。1本目同様、最初にアタックした山本だったが、タイムは1本目と全く同じ3分9秒。対して和泉は昼休憩の時間を使ってリアタイヤをiRCのGX20からVX40にチェンジ。記録は3分3秒、タイムを5秒縮めることに成功した。他のライダーも2本目で1〜5秒ほどタイムを縮めてきたが、優勝は和泉の手に。かつてアスファルトダンサーとして日本のエクストリームバイク界を牽引した和泉にとっては、スライドコントロールはお手の物。3回連続でこのアイアンロードを制した和泉は「アイアンロードこそHidaka Rocksの真髄」と語る。
大塚の初優勝を阻んだ1本のヒルクライム
決勝ヘアスクランブル
決勝ヘアスクランブルの一部として使われる「ロックガーデン」と名付けられた岩内川の河原は、大小の岩が無数に転がるロックセクションで、元々は日高2Daysエンデューロのコースの一部として使われていた場所だ。そこを延長し、よりハードエンデューロ向きなセクションに仕上げられていた。
この「ロックガーデン」をはじめとして、ヘアスクランブルのコースにはガレ・ロックのセクションが多い。いや、それしかない、と言っても過言ではない。スタートからゴールまで4つのチェックポイント(CP)が存在し、その間に立ち塞がる8つのセクションをいち早く抜け、CP4があるフィニッシュラインに最初に到達したライダーが優勝となる。スタート地点とゴール地点が異なるため、2周目は存在しない。
例年、終盤の難セクション「ダイナマイト」に至るための川渡りで転倒し、マシンを水没させてしまうライダーが何人も出るのだが、今年は降り続いた雨の影響でこの川が増水しており、「ダイナマイト」ごとこの川渡りをカット。完走の敷居はかなり低くなったと思われた。
スタートは予選アイアンロードで10位までに入ったライダーを1列目として、そこから2分間隔で10台ずつ、予選順位に則ってスタートする。1列目には和泉、山本の他に、木村、水上、西川輝彦らが入り、佐伯竜、佐々木文豊、馬場、大塚正恒らは2列目となった。
エルズベルグロデオでは1列50台で10列500人が決勝に進み、予選で1〜3列目までに入らないと完走は無理、と言われているが、Hidaka Rocksでは予選順位はそこまで大きなハンデにはならない。実際、2019年大会でも予選で崖落ちを喫して最後尾5列目スタートとなった藤田貴敏が優勝を攫っている。
今大会もスタート直後のヒルクライムでこそ1列目組と2列目組は明確に離れていたが、CP1の後にある「ロックガーデン」ではすでに2列目スタートだった大塚がトップに立っていた。続いて山本、和泉。
その先のCP2「パイプライン」でも大塚はリードを守っていた。「パイプライン」は沢の中に降りて橋の下を潜るトンネルを抜ける難解なセクションで、ここをいかに早く抜けるかが勝敗を分ける。山本、飯田哲久、飯田晃久、佐々木、木村、水上、西川……トップライダーが続々とここに集結する。
大塚はそのままCP3「ドラゴン」もトップで通過。「ダイナマイト」がカットされたことで、ゴールとなるCP4までにはヒルクライム2本を残すのみとなった。しかし、ハードエンデューロで先頭を走ることは、思いのほか体力を消耗する。誰も走っていないセクションを手探りで攻略せねばならず、そこに失敗は必ずついてくる。2番手以降は、先頭のライダーが走ったラインを見てそれをトレースすればいいのだ。
まるで昨年の最終戦・日野を思い出す展開だった。大塚が前半のヒルクライム「ワイヤーマウンテン」を直登して一人抜け出し、終盤の「エムスリー」までトップを走ったが、そこでスタミナが尽き、山本が逆転優勝した大会だ。だが今回はまだレース開始わずか1時間ほど。ガレセクションの連続でスタミナこそ消耗しているが、大塚の目は生きていた。「今度こそ、勝てるかも」そう思っていた。
しかし、最後に待ち構えていた1本目のヒルクライムが曲者だった。コーステープの幅こそ広いが、コースのほとんどは荒れ具合が酷くて使い物にならず、登れそうなラインは1本しかなかった。マーシャル曰く「コースを作った時はこんなに荒れていなかった。まるで別のセクション」とのこと。つまりこれは主催側としても想定外の事態だったのだ。
大塚が何度トライしても半分も登れず、15分ほど経過したところで2番手の山本が追いついてきてしまった。そこに水上、和泉、木村、西川、佐々木が続く。ヒルクライムの下に続々とライダーが貯まる。ここで大塚がここまで築いてきた優位性は完全に無くなってしまった。
助走で岩に弾かれ加速がうまく乗らず、さらに段差で勢いが削られ、中段で止まってしまう。集まったライダーは協力して助走ラインの岩をどかし始める。また、中段から押し上げる道に賭けた山本は足でキャンバーを作り始める状況に。ここでスタッフは「レース時間が残り30分になっても誰も登れなかったらエスケープラインを開放する」という決断を下す。
このまま誰も登れないのか、と思われたまさにその時、水上4回目のチャレンジ。あとわずかに届かないか、という高度で水上がマシンをリリース。いわゆる「投げ」だ。ハードエンデューロの世界ではマナー的に良く思わないライダーも多く、水上もその一人だ。しかし実際、世界のハードエンデューロシーンではこの「投げ」がよく使われているし、時にはそれを前提として作ったのではないか、と思われるようなセクションすら存在する。とにかく、水上はマシンだけをヒルクライムの上にあげることに成功。そして続く2本目を3回のチャレンジで成功させ、見事Hidaka Rocks 2022の優勝を手にした。奇しくも2019年の藤田に続き、北九州勢が2大会連続の優勝となった。
続いたのは大塚。15回を超えるチャレンジの末、水上が投げ上げた1本目のヒルクライムをマシンに乗ったまま完璧に登頂し、続けて2本目も一発クリア。トライアルIA出身のテクニックを存分に見せつけた。3位は佐々木。最終セクションへの到着は決して早くなかったものの、見事に表彰台を獲得した。
水上泰佑
「アヤト(山本礼人)はガレに苦手意識を持っているので、勝つにはここ(日髙)しかないな、と思っていました。予選で1列目に入ることができたので、スタートから飛ばしていったのですが、ロックガーデンでミスしてしまって順位を下げてしまい、パイプラインでなんとか先頭集団に追いつくことができました。
最後のヒルクライムに到着したのは3番手だったんですけど、みんなで石をどかして協力して挑みましたが、本当に難しくて、最後は投げちゃいました。もし僕が先頭であのヒルクライムに到着してたとしても絶対に登れなかったので、運が良かったと思っています。
2020年にチャンピオンを獲っていますが、実は一回も優勝しておらず、G-NETの優勝は3年ぶり(2019年の日野ハード以来)なので本当に嬉しいです」
大塚正恒
「前半のロックガーデンですごく疲れてしまいました。基本的に石系は得意なんですけど、体力が課題ですね。今年は前2戦の成績が奮わなかったので、全戦参加してシングルゼッケンを死守したいと思っています。あわよくばどこかで一勝したいんですけど、アヤトくんも速いですからね。今日は前半でうまくリードできたので『勝てるかも……!』って思ったんですけど、最後のヒルクライムにやられましたね」
佐々木文豊
「2列目スタートだったのですが、スタートして割とすぐに1列目のライダーに追いつけました。パイプラインでは4番手に上がって飯田さんと協力して押し上げて、そのあとは飯田さんが休憩していたので先に行かせてもらったんですけど、ドラゴンで失敗して抜かれちゃって。今日はリアタイヤにシンコーの520DCを使っていて、これは540DCよりも石に強いんです。中身はチューブリスにハーフムース(使い古したムースをくり抜いたもの)の併用で、これはSea To Sky(トルコのハードエンデューロレース)に出た時に向こうのメカニックが教えてくれた方法なんです。これならパンクしてもビードが落ちずに走れるんです」
今年ここまで2連勝の山本は4位。続いて西川、木村、月原邦浩、梶慎一朗の順で8台が時間内にゴールラインを通過した。
G-NET次戦はしばらく空いて10月16日のブラックバレー広島。しかしその前に山本、佐々木が参戦するルーマニアクスが一大イベントとしてすぐそこに迫っている!