FIM Hard Enduro World Championship
Red Bull Romaniacs 2022
日程:2022年7月26日(火)〜30日(土)
場所:ルーマニア シビウ
エルズベルグロデオと並び、FIMハードエンデューロ世界選手権のラウンドに含まれているのが、ルーマニアクスだ。名前の通り、東欧ルーマニアで開催され、予選であるプロローグを含め5日間にも及んで開催されるハードエンデューロラリー。プロローグは市街地のストリートを封鎖して作られた特設コースをタイムアタックし、決勝レースの4日間は山の中のハードなコースを走りそのタイムの合計で順位が決まる。
ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン、アトムの5つのクラスに分けられていて、ゴールドは世界のトップライダーが集まる最高峰クラス。アトムはツーリングにちょっとダートが含まれている程度の入門クラスというわけだ。これまで日本人でこのルーマニアクスに挑戦したことがあるのは中国在住の竹内郁馬氏(2018年/アイアン)だけだったが、今年はゴールドにG-NET2021チャンピオンの山本礼人と佐々木文豊、ブロンズに奥卓也、横田悠、岡庭大輔の5人がエントリーした。
日本チームは全員、世界中でレースサポートを行うクロスパワーレーシングにサポートを頼んでおり、マシンもそこでレンタルする。KTM、ハスクバーナ、GASGASの高年式モデルから選ぶことができ、山本はGASGAS EC300の新車を借りた。
大歓声に押されて出し切ったプロローグ
現地入りしてマシンのセッティングを終えた日本チームは軽い慣らし走行を終え、まずは予選であるプロローグに参戦。このプロローグは巨大なタイヤや丸太、ジャンプ台などの人工セクションで構成され、マシンを壊したり怪我をするリスクが大きかったため、日本チームは参加を悩んでいた。プロローグは参加しなくてもタイムペナルティが課せられるだけで失格にはならないからだ。しかし、実際にコースを下見してみて「これならなんとかなるかも」となった。佐々木だけは前日の慣らし走行でマシンを故障させてしまい、その修理のためにプロローグは見送った。
まず最初にスタートしたのはブロンズクラスの岡庭大輔。岡庭は丸太セクションを順調にこなしたものの、巨大タイヤで前走ライダーに引っ掛かり転倒してしまい、そこで大きくタイムロス。その後もロックセクションなどで苦戦を強いられ、タイムは6分26秒。
次に横田悠。横田は岡庭がタイヤセクションでタイムロスしていたのを見ていたため、慎重に他のライダーが引っかかっていないのを確認してタイヤに進入し、スムーズにクリア。さらに最後のジャンプ台も華麗に飛び、2分18秒を記録した。
ブロンズクラスとして日本チームで最後に出走した奥卓也。岡庭が苦戦したタイヤセクションで大前転を喫してしまい、その後も転倒があったが、どちらも素早く復帰し、2分58秒で走り切った。
そして他のクラスがプロローグを走っている間に日本チームは昼食を済まし、午後にはいよいよゴールドクラスが開始。ゴールドクラスは2回アタックし、良い方のタイムが成績として反映される。世界のトップライダーが40秒台という異常なスピードで走り切る中、山本礼人は1分46秒。29位/30人という順位でプロローグを終えた。またこの後、各クラスの上位ライダーが一斉にスタートするプロローグの決勝レースも用意されていたが、ブロンズクラスの横田は36位で惜しくも漏れてしまい、山本は出走の権利はあったが、リスク回避でこのレースを辞退した。
ルーマニアクスとエルズベルグロデオの一番の違いは、予選のタイムアタックで遅かったからと言って、本戦で渋滞に捕まる心配がほとんどないことだ。ラリー形式で時間差スタートではあるが、各クラス毎に別々のセクションが用意されており、タイム計測はライダーがスタートした瞬間から始まる。つまり先にスタートしても後でスタートしても、大きなハンデにはならないのだ。そのためハードなコースを4日間走り切るタフネスさえあれば、山本、佐々木にもゴールド完走の可能性は十分にあると思われた。
ゴールドクラスの高い壁を痛感したDAY1〜DAY2
ルーマニアクスの本領はここからだ。4日間にわたりルーマニアの山中を走るハードエンデューロが始まった。1日の走行距離は100kmを超え、走行時間は最速でも4時間。8時間を超えてしまうとタイムアウトとなりペナルティが加算される。そして4日間のうちに2日タイムアウトしてしまうと失格となり、レース続行は不可能となってしまう。
1日の流れを簡単に説明すると、朝4時頃に起きて宿泊しているホテルで朝食を摂り、サポートをお願いしているクロスパワーレーシングのガレージへ移動してバイクを受け取る。それからレースの運営本部が設置されているパドックへ移動しGPSを受け取り、その日のスタート地点へ移動してレース開始。
この移動手段は全て自走となるが、山本と佐々木は体力の消耗を最小限に抑えるためにクロスパワーレーシングのシャトルバスサービスを利用した。
レースを走り切るとゴール地点からパドックまで自走し、GPSを返却。それからまたクロスパワーレーシングのガレージへ移動し、バイクのメンテナンス(故障箇所の修理やタイヤ交換など)を依頼し、ホテルへ戻って夕食を食べられるのは21時頃になり、23時頃にようやく就寝となる。
ゴールドクラスのDAY1スタート地点は、なんとシビウから50km近く離れた山の中。日本のレースとはスケールがまるで違う。例えるなら、新宿が宿泊地だとするとスタート地点が中央自動車道相模湖東出口ICにあるようなもの。
ルーマニアに入国して3日目にして、いよいよ始まる本番レースに元気よくスタートした山本。しかし、このわずか15秒後、ルーマニアクスのゴールドクラスがどういうものかを思い知ることとなった。
「スタートして最初のセクションがいきなり’’エムスリー’’(2021年のG-NET日野に出現した難易度MAXヒル)と同じくらいのレベルでした」と山本。この’’エムスリー’’は全日本ハードエンデューロ選手権G-NETのトップランカーの中で山本を含む3人しか自力で登頂できなかったというセクションで、ここ数年の日本のハードエンデューロでは間違いなく一番難しいセクションだ。そんなものが、いきなり現れたのだ。
さらにそれから4時間ほど後、全部で10個あるチェックポイントの、たった3つ目でのことだった。実は今年からゴールドクラスのみに、同じセクションを3周し、その様子を動画で生配信するライブマニアックスというフォーマットが始まっていて、DAY1でそのライブマニアックスに選ばれたのが’’ベビーシッター’’というセクションだった。
エルズベルグロデオの有名なロックセクション’’カールズダイナー’’のようなガレ場をクリアした後に、フロントが捲れるかどうかギリギリの斜度のヒルをZ字を描きながらジグザグに登っていく。ここで山本は同じクラスのライダーを助けながら命懸けで登り、1周に2時間を費やした。しかしタイム設定ではそこを残り1時間半で2周しなければならず、体力的にも時間的にもどう考えても無理なためリタイアを決意した。
ゴールドクラス最後尾から山本を追いかける形となった佐々木は、序盤のセクションでフロントブレーキディスクを曲げてしまい、さらに苦しいライディングを余儀なくされていた。それでも着実にコマを進め、山本がリタイヤした’’ベビーシッター’’に到達。途中まで登ったところでキャメルバッグの水が底を尽き、登頂を断念。登るのも恐ろしい急斜面を降り始めたところで体力が限界を迎え、バイクを置いて徒歩で坂を降り、民家に助けを求めた。そこで水を分けてもらい休息を挟んだのち、再びセクションに戻ってバイクを下ろし、自力で生還を果たしたのだった。
ブロンズの奥、横田、岡庭はそれぞれ順調にレースを進め、全員DAY1を完走。さすがにブロンズにはゴールドのような厳しいセクションはなかったものの、CGCさわやかクラスレベルの難易度のコースをハイスピードでプッシュし続けることが求められたという。その中には時折、G-NETレベルのセクションが混ざっていて、日本でいうハードエンデューロのコースとはまた一味違う、いうなれば難易度の高いクロスカントリーのような内容だったという。
DAY2では山本が意地を見せた。スタートして2時間ほどでCP1を通過し、問題の3周セクション’’タイタニック’’に入った。そこを今度は1周1時間で通過し、暫定順位も27位に上げた。しかしCP5に辿り着いたところで規定時間をオーバーしてしまい、タイムアウト。佐々木はスタートしてすぐのヒルクライムで盛大に捲れ、首を打撲。バイクは何回転もしながら崖を転がり落ちたものの、奇跡的に走れる程度の故障で済み、そのままCP1までコマを進めたが、そこで限界を感じ、リタイアを決めた。
山本が1時間かけたこの’’タイタニック’’を、トップライダーたちはなんと6分でクリアしていることをリザルトで知り、改めて世界の壁の高さを痛感したのだった。
ブロンズの3人はDAY1よりも難易度を増したコースに苦戦しつつも無事に完走を果たした。ヒルクライムの登坂力やセクションでのテクニックを強く求められる日本のハードエンデューロとは違い、登りはひたすら押し上げ、その後長い長い下りを延々と降らされるという体力勝負の地獄のようなセクションが続いたという。
しかしこの日はマラソンステージになっていて、ゴールしたあとはシビウのホテルには戻らず、ルーマニアのスノーリゾート・ランカにパドックが設けられた。日本で例えるなら阿蘇山や四国カルストのようなどこまでも広がる山の中をオフロードバイクで駆け抜け、ランカに辿り着いた横田は「今まで見た中でも最高の景色でした。このまま死んじゃうんじゃないかってくらい。2日間の辛いレースが全部報われるような幸福感に満ち溢れた時間でした」と、この時の気持ちを振り返った。
ランカでの宿泊はテント泊とばかり思い込んでいた日本チームだったが、着いてみるとなんとペンションが用意されており、一人一部屋個室が与えられ、シビウのホテルよりも快適な睡眠を取ることができたのだった。
怪我やトラブルを乗り越え、限界に挑むDAY3〜DAY4
DAY3はランカを出発し、再びシビウを目指して走る。その途中に、また無数のセクションが現れる。ゴールドの山本、佐々木はすでに2日リタイアを喫しているため、ここから先はレースを走ることができず、ブロンズ3人の応援に回る形に。
ここまでは日本チームの走りのみを追い続けてきた取材班だったが、この日は山本、佐々木のトップライダーの走りを見てみたいという希望もあり、例の3周セクション’’ブロークバック・マウンテン’’へと向かった。ランカから距離にしておよそ150km。車で移動しても3時間ほどかかる。そんなハードエンデューロレースが他にあるだろうか。
そして、念願かなってトップライダーたちの走りを目の当たりにすることができた。グラハム・ジャービス、マニュエル・リッテンビヒラー、マリオ・ロマン、マティアス・ウォークナー……彼らのテクニックは完璧だった。タイヤ一本分間違うだけで、崖下に落下する危険のあるセクションを、まるで機械のような正確さスムーズにクリアしていく。
崖を真っ直ぐ直登するのではなく、斜めに登ってマシンの向きを変えて、また登って向きを変える、いわゆる「Zを切る」動きが異常に正確なのだ。ほとんど動きを止めることなく、毎周全く同じところにフロントタイヤを落とし、危なげなく登っていく。
山本はこれを見て「トライアルIASのテクニックと足の長さ、そして圧倒的なフィジカルが必要」と分析した。
一方、ブロンズに出走している3人の日本人はこれまでで一番の試練に直面していた。
日本チームでも先頭を走る奥はそれでも順調にレースをこなしており、取材班は待ち受けたセクション’’トヨタ・トラック’’で撮影に成功。奥はそのまま日本チームの中ではトップの成績でDAY3を走り切った。
ゴール地点で横田を迎えると、なんと顔から流血……隠れていた丸太に弾かれて転倒し、頭を強打してしまったとのこと。軽い脳震盪を起こしながらも走り切り、見事ゴール。
さらに岡庭はなかなか戻ってこなかった。安全のために日本チームで共有している位置共有アプリでみると、かなり近くまでは来ているのだが、なかなか進まない。怪我か、故障か。1時間ほどして岡庭はゴールに辿り着いたが、惜しくも約20分のタイムアウト。270分のタイムペナルティを食らってしまった。遅れた原因は、GPSの破損。転倒した際に運悪くGPSをヒットさせてしまい、頼るべきナビを失ってしまったようだ。むしろそれで正しいコースを見つけ、無事に生還できたのだから、まさに幸運だったと言えよう。
なんにしろ、ブロンズは3人とも最終日まで生き残った。
最終日も順調にレースは進んでいった。
やはり日本チームをリードするのは奥。すぐ後ろに横田も続いて、DAY3のタイムアウトが響いて遅いスタートとなった岡庭は1時間ほど後方を走るも、前半では日本チームで一番のタイムを出すなど奮闘した。
終盤にはシビウ市内を抜けてフィニッシュヒルに向かうのだが、その途中にあったセクションがこちらの川渡り。橋が3つに分割されていて、最初と最後の部分がシーソーになっている。最初の部分に乗って半分まで進むと重心が移動して橋が倒れ、真ん中の橋に乗ることができ、最後の橋も同じ要領で対岸へとアクセスできる。
ここでは多くの海外ライダーたちが失敗して川にダイブしていたが、日本チームの3人は全員無事に通過。岡庭曰く「ここまでのセクションが4日間で一番きつかったので、今更こんなのが出てきても、ゴールが近いこともわかっていたので大して怖くなかったです」とのこと。
そして最後の見せ場となるのが、このフィニッシュヒル。ゴール地点にあるため、大勢の観客が詰めかけており、大歓声に後押しされながらアクセル全開。フカフカのサンド路面のために思うように進まず、見た目以上に難易度は高い。ゴールドは直登が必須だが、他のクラスは途中で横に外れて迂回ルートから登ることも許された。
奥、横田に続き岡庭もこちらのフィニッシュヒルをクリア。ゴール直前に待ち受けた沼エリアも迂回せずに真っ直ぐに突っ込み、観客を魅了した。
そうして、ブロンズにエントリーした奥、横田、岡庭は見事、完走。
山本礼人
「DAY1の’’ベビーシッター’’が一番厳しかったですね。フロントが浮きそうなくらいのめちゃくちゃ急な斜度で、一本ラインを間違えたら崖に落ちるようなところでステアとかでかい岩を超えていくようなところが延々続きました。よく見ると轍を跨いで直登したようなタイヤ跡がついていて、おそらくそれはジャービスとかトップライダーたちが使ってるラインなんですけど、どうやってそんなところを走るのか、まったくわかりませんでした。間違いなく人生で一番難しかったですね。
DAY2はスタートしてすぐのヒルクライムがもう初見ではどこ通ったらいいのかわからなくて、角度もきつくて。7合目くらいから押し上げていくんですけど、その入り口がすごく狭くて、外すと崖落ちしちゃうような。難易度も高いし失敗した時のリスクが大きいセクションが多かったですね。
実は途中で何度も他のライダーを助けています。これは確かにタイムロスには繋がっているんですけど、もしも自分がミスしてしまったら1人じゃ復旧できないので、助け合って仲間を作っていった方が、最終的には良い方向につながると信じています。結局今回は僕が助けてもらうことはありませんでしたが、それはたまたま運が良かっただけだと思います。
僕らとトップライダーとの差は、テクニックはもちろんなんですけど、一番はフィジカルだと思います。あんな難所を何時間も走り続けられる体力はちょっと僕ら日本人にはないですね。僕がこの先、日本でどんなに練習しても彼らには追いつけないだろうと思います。もし本気で彼らのようになりたいなら、拠点をヨーロッパに移して、彼らと同じ環境で練習をするしかないです。
僕、バイクに乗ってて全く楽しくなかったのって初めてなんですよ。怖くて、キツくて、悔しくて。とにかくこれから海外レースにエントリーする日本人のライダーには、僕を反面教師にしてもらって、自分が”このくらいかな”と思うクラスのひとつ下のクラスに出ることをお勧めします。せっかく高いお金を払って参加するので、やっぱり楽しい方がいいですよ」
佐々木文豊
「一つ一つのセクションはまったく走れないわけではないんですけど、そこをハイペースで休まずに走り続けないと完走はできません。初めて世界のトップライダーと同じ舞台で戦ってみて、彼らがどれだけすごいのかが実感としてわかりました。”ベビーシッター”は登るのと同じくらい降るのが怖かったですね。Z字に降りるのは無理な斜度なので、まっすぐ降りていったのですが、路面がガサガサで滑るので、本当に危険でした。助けてくれた民家の人たちがものすごく親切で。向こうはルーマニア語なので英語もまったく通じなかったんですけど、それでも水をくれて休ませてくれたので、おかげで帰ってくることができました。
実は本当はシルバークラスにエントリーしたかったんですよ。でも僕はみんなよりちょっと決断が遅くなってしまって、エントリーしたのは去年の年末くらいなんですけど、その時にはもうブロンズもシルバーも埋まってしまっていて、ゴールドしか空いてなかったんです。
次があるならぜひシルバーで出たいですね。このボリュームのコースを4日間なんて、全部走れたらめちゃくちゃ楽しそうですもんね。アヤトとも話したのですが、シルバーのコースを実際に見てみて、これなら本当に完走できそうだな、と思いました。ただ、それでもトップライダーはめちゃくちゃ速いので表彰台とかは無理で、あくまで目標は完走ですね」
奥卓也
「ブロンズのコース難易度は自分の想像通りでしたね。これに向けて練習してきたものがきちんと生かされたと思っています。日本のレースで一番ルーマニアクスに近いのはおそらくCGCのナイトエンデューロなんですよ。そこをもう1〜2個上のギアで走る感じ。多かったのは3,4,5速ですね。停まらずに延々と難所を走り続ける練習が大切です。実は今年はほとんどハード系の練習はしてないんですよ。池の平ワンダーランド(愛知県)を長時間走り続ける練習とかがメインで、それがばっちりハマりましたね。
Sea To Skyは最終日の終盤セクションだけ急に難易度が上がるのですが、それ以外はそこまでではなく、ルーマニアクスのブロンズはこれと難易度が近いと感じました。ただルーマニアクスの方が距離と時間が長いので、ずっとプッシュしてるのがきついです。筋肉痛もそうなんですけど、関節がめちゃくちゃ痛くなっちゃって。僕の場合は肘がすごく痛くて、最終日はレース中にロキソニンを4錠飲んで、痛みをごまかしながら走っていました。日本では肘が痛くなったことなんて一回もないんですよ。
今までTKOやSea To Sky、サハリンを始め様々な海外レースに出場してきましたが、ルーマニアクスが最も競技性を感じました。特に渋滞がほとんどなかったのが一番良かったですね。僕はもうほとんど1人旅で、助けたり助けられたりっていうのは最終日に一回あっただけで、ずっとスムーズに走っている感じでしたね。ルーマニアクスは競技志向の強いライダーにオススメで、エンジョイしたい人はSea To Skyがいいと思います。ただ、ルーマニアクスの良い点はゴールドクラスのライダーと一緒に走れるところですね。途中でコースが重なるのですが、向こうはこっちに比べて難しいところを走ってきてるので、タイミングが被るんですよ。後ろから速いライダーの音が聞こえてきて確認したらタディだったので、すぐ横に避けて『ヘイ、タディ!』って声かけたらニコッとしてくれました。
本当は順位的にはもう少し上位に入れると思っていたのですが、ブロンズやアイアンのような下位クラスでもその上位陣はめちゃくちゃ速いんですよ。アイアンの速い人がシルバーのライダーを抜いたりとかもありました。僕はブロンズクラスが一番合ってましたね。シルバークラスでもセクションはクリアできると思いますけど、それを4日間毎日100km走るのは無理だと思いました。
海外のレースって日本人が想像するハードエンデューロとはちょっとジャンルが違うんですよね。シングルトレールがメインで、僕は日本のラリーを走ったことがないのですが、やっぱり近いのはラリーなんじゃないですかね」
横田悠
「やっと終わってくれました。昨日(DAY3)がとにかく疲れて、今日はずっと『早く終わってくれ』って思いながら走ってました。昨日の転倒もあったので今日は一定のペースで無理せず走っていたんですけど、前半のコースが思いの外難しくて。この4日間の中では一番難しかったんじゃないですかね。面白かったは面白かったんですけど、他のライダーをいっぱい助けなきゃいけなくて。あれほど体力を残して走ろうと思っていたのに、めちゃくちゃ疲れました。
おそらく日本と海外でハードエンデューロっていうものに求められるものがちょっと違っていて、日本では走破テクニックが一番求められるんですけど、ルーマニアクスではフィジカル、つまりタフさが一番求められていて、次に安定したスピード、たまにちょっと基礎的な丸太やステアのスキル。海外のライダーも上手いは上手いんですけど、走破テクニックだけを取るなら今回ブロンズに出場した僕ら3人の方が上かもしれません。一概には言えませんけどね。ただ、総合力で言うと全然負けてますね。やっぱり僕はブロンズクラスが限界でしたね。1日だけシルバークラスのコースを走れと言われたらもしかしたらできるかも知れませんが、4日間は体力が持ちません。4日間走り続けるのがこんなに辛いとは思いませんでした。
海外レースだからではなくて、このレースが世界的なビッグイベントだという事実が、一番大きい醍醐味です。そんなイベントに出場できたというだけですごく自分が高まるし、実際に走ってみたら世界各国から面白いライダーが来ていて、走っているうちにだんだんと仲良くなってくるんです。とにかくこのレースに出られたこと自体が、とても嬉しいです。この充実感はとんでもないですよ。
プロローグでもいい成績が残せましたし、4日間しっかり全力を出し切ったので、成績には満足しています。今回一緒に参加してくれた他のメンバーのように、これから色々な海外レースにチャレンジしてみたいですね。ルーマニアクスはちょっとタフすぎるレースだったので、Sea To Skyみたいなもうちょっとリラックスして楽しめるレースやツーリングイベントにも参加してみたいな、と思います」
岡庭大輔
「やっと終わった、という感じですね。想像以上にタフでした。僕は一応Sea To Skyにも2回出ており、それなりに覚悟もしていたのですが、こんなにタフだとは思いませんでした。Sea To Skyももちろんハードエンデューロレースで4日間にわたるのですが、そのすべてが楽しいんですよ。でもルーマニアクスはちょっと違いました。
2日目の宿泊地だったランカはとても外国感があって素晴らしいのですが、メインのコースとなるシビウ周辺の山はわりと植生とか日本っぽいので、走っていて『ここ日本かな?』って思っちゃってモチベーションがあんまり保てなくなっちゃうんです。想像以上にガチなレースで、エンジョイ目的で出ると痛い目に遭います。それはブロンズクラスでも変わりませんでした。ゴールドクラスと違ってブロンズクラスとかって映像がほとんど残っていないので、どういうコースなのか走るまでわからなかったんですけど、やっぱりとにかく長い。特に下り坂ですよね。登りはゆるーく林道っぽいところをグイグイと登っていくんですよ。その時にはもう頭の中で『あぁ、これ登り切ったらアレが来るなぁ』って思うわけですよ。で、案の定、そのあとは延々と下るんです。本当にいつまでも終わらなくて腕がパンパンになります。
ヒルクライムに関してはぶっちゃけ難しいのはほとんどありません。日本でそれなりにハードエンデューロをやっている人ならブロンズクラスには登れないヒルはないと思います。ただ、長さからくる疲労で簡単なこともできなくなってくるんです。1日100km以上走るということを頭ではわかっていたのですが、実際に走ってみて、しかもそれが4日間続くと、けっこうキますよ。言っても1日目はちょっと楽しいんですよ。2日目で『おやおや?』ってなって。僕は3日目でGPSを失ってタイムオーバーしちゃったんですけど、ルールをよくわかってなかったので、もしこれで(4日目を走り切っても)フィニッシャーになれないのなら、4日目は走らなくてもいいかな、と思っちゃったくらいです。
全体を通してこのルーマニアクスというレースは本当によく考えられていて、CPで必ず休憩が義務付けられていたり、スタート時間が順位ごとにズラされていたり、同じセクションを3周するライブマニアックスだったり、ライダーも観客も楽しませようとする運営の工夫が感じられました」